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びおら弾きの微妙にズレた日々(再)

音楽・アート(たまにアニメ)に関わる由無し事を地層のように積み上げてきたブログです。

   

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「崖の上のポニョ 」

B0021D5ETQ崖の上のポニョ [DVD]
ウォルトディズニースタジオホームエンターテイメント 2009-07-03

by G-Tools


ついったーでも呟いていたけど、宮崎作品にしてはいやにあっさりした味付けだった。昨年の公開時には賛否両論、「わけがわかんない」という声があがったのも納得。

だってクライマックスがない。さらに言えばやっつけるべき悪者がいない。だからラストにたどりついてもスッキリ感が足りない。
やろうと思えばいくらでもドキドキハラハラを作りこめるスタッフがこういう作りにしたということは、何かしらの意図があったのだろうな。

ほかにも「へぇー」なことがいろいろと。

冒頭があたかも昔のディズニー映画のような演出で、まずそのことに驚いた。元ネタが人魚姫というのもあるけれど、オーケストラ演奏による美しい音楽に乗せてキャラクターを動かす手法はまるでファンタジアみたい。

背景画がざっくりとした手書き風のタッチになっていることにもびっくりした。それでいて海沿いの町の空気も人物の動きも恐ろしくリアル。台詞がなくても言いたいことが伝わってくる迫力がたまらない。もしかしてCG使ってない?(※) ひたすら手書きで美しいアニメを生み出した初期のディズニーをここでも意識してる? その真偽は別として、全編心ひかれる映像だった。
あと、余計なひと言だとはわかっているのだけど……泥臭さを感じさせる宮崎テイストがすっかり脱臭されてちょっと寂しかった。

さらに、ヒロインが可愛くないというのもある意味衝撃。もちろん、そこがこの話のキモなんだけどね……。ポニョの母、グランマンマーレは信じられないほど美しいのに、ポニョ本人は……もちろん人間の女の子に完全変化しているときはメイちゃん(@トトロ)みたいに可愛いけど、半魚人の時は……良く言えばキモ可愛い。

その代わり、カッコ可愛い役柄は宗介の母、リサが引き受けているらしい。リサはまさに母親の鑑だね。強くて優しい。自分を偽らない。礼儀を知っている。時と場所に応じて適切な言葉遣いができる。そんな彼女は、子どもに「母さん」と呼ばせず、「リサ」と名前で呼ばせているけど、これは、一歩間違えば道徳の教科書に出てきそうな母親像にはまるのを防ぐ役目を持っているんじゃないかな。

擬人化されているという海の描き方も興味深かった。
海を擬人化するとどうなるかというと、自然や生物の母としての海のみならず、魔法が機能するファンタジー世界をも海に象徴させることが可能だ。人が心の中に抱える無意識界とでもいうのか、想像力・創造力の源となり、つかみどころのない暴力的なパワーのもとを海に見立てることができる。
そうやって考えるとこの物語は、本来ファンタジー世界の住人であるポニョが人間の男の子に憧れて、強引にリアル世界(=陸上)へ飛び出してきたものだから、境界が破れて世界のバランスが崩れ、それを繕うためにポニョの両親が奔走する話として見ることができる。ポニョが魔法を捨て、完全に人間になれば両世界の境界に開いていた穴はふさがるが、そのためには宗介がポニョという存在を完全に受け入れなくてはならず、だから宗介が世界を救うカギになったのだ。

で、結局この物語は何を語っていたかと言うと、「愛」。恋愛―恋=愛の愛。
一番印象的なシーンは、宗介とポニョがボートで母親のもとへ向かう最中、舟で避難している若夫婦と出会うところだった。
若い奥さんは生後半年くらいの赤ちゃんを抱いている。奥さんは意外なほどのんびりと宗介と会話を交わすのだけど、腕の中の赤ちゃんの目つきがものすごく悪い。これは大泣き十秒前かと思うほど。するとポニョはその赤ちゃんをじーっと見つめる。そしてお腹が空いているらしいと気がついて、水筒の中のスープを差し出す。でも赤ちゃんなので、まだスープをコップから飲むことができない。お母さんの身体経由でないと(つまり母乳へ変化しないと)だめなのだ。そのことがわかるとポニョはお母さんに自分のサンドイッチを渡す。それで別れようとすると、赤ちゃんがぐずって泣き出す。するとポニョは赤ちゃんのもとへ走っていって、ぎゅうっと強烈に抱きしめ、赤ちゃんの機嫌がすっかり良くなったというシーン。ポニョが赤ちゃんに伝えたのは「そうすけ、だーいすき!」と叫ぶときの「だーいすき!」の部分だったに違いない。全身全霊で「だーいすき!」と叫べるパワフルで温かい心がポニョの本質だ。宗介は、それがよくわかっていたから「どんな姿のポニョも好き」と嘘偽りなく答えられたのだろう。

※補足(2009/9/8)
CGの使用について、実はポニョでもCGは使われていると、ある方からご指摘をいただきました。
宮崎監督のインタビューからは「すべて手書き」という印象を受けますが、実際に手書きで書かれたのは原画部分です。(それでも17万枚!) その後の処理(色付け、キャラクターと背景の合成、特殊効果など)にCG処理がほどこされているということです。

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「崖の上のポニョ 」

  • by zunco
  • 2009/07/26(Sun)17:56
  • Edit
 ここまで書けるなんて、さすがだなぁ、と感心。
劇場で友達と見たのですが、どうも「もののけ」あたりから、色々な要素を詰め込みすぎているような気がして、見終わったあとの感動がイマイチなんですよねぇ。
でもポニョのお父さんの声が所さん、という点が気に入ってます。

Re:「崖の上のポニョ 」

  • by O-bake
  • 2009/07/27 00:34
確かに「もののけ」は詰め込みすぎでしたよねぇ。
千と千尋とかハウルなんかは、比較的王道な作り方だったと思います。でもシンプルに感動できるかどうかというと、ナウシカやラピュタにはかなわないかなぁ。
トトロだって悪役は誰一人出てこないのに、すごくハラハラして最後は「ああ良かったね」と素直に感動できましたし。
製作者にとっては、ある程度ヒット作を生み出すと、実験をしたくなるのではないでしょうか。あえて観客に受けるツボをはずしたりとかね。

>でもポニョのお父さんの声が所さん、という点が気に入ってます。
同じくです(^^) 

長々と突っ込んだ感想を書いてしまうのはきっと勉強中の身だからでしょう。

「崖の上のポニョ 」

  • by 通りすがり人
  • 2009/09/08(Tue)16:36
  • Edit
夢を壊すようですみません。

ポニョはCG使っております。
色がデジタル・ペイントなので、
まずそれがCG技術のひとつです。
あとは、ハリウッド映画と同じで、
特殊効果という光や水中効果を、
レイヤーという重層処理で施してます。

http://www.ghibli.jp/ponyo/press/keyword/
↑このページに特殊効果CGの使用が明記してあります。
CG彩色も臭わせてあります。

Re:「崖の上のポニョ 」

  • by O-bake
  • 2009/09/08 18:05
>夢を壊すようですみません。

いえいえ、ご指摘ありがとうございます。
http://www.afpbb.com/article/entertainment/movie/2419511/3139164
↑こういう記事を読んで、てっきりすべて手書きかと思ってしまいました。また、私と同じように思い込んだ人たちが「ポニョは手書き」というブログ記事を書き……と事実とは違う認識がどんどん広がっているようですね。

http://www.rgs680.com/daily/tvprogram/046.html
本当は↑の記事にあるように、原画は手書きで、それ以降のプロセス(色塗り、背景とキャラの合成処理など)がCG処理ということなんで、さすがに今の時代にセル画はないですよね(汗)

リンク先のページ(ジブリ公式サイト)の記述ですと
「セルを使わない現在のアニメーション制作では、背景とキャラクターの合成や光の効果を加える際のコンピューター処理は不可欠です。
 しかし、登場する全ての動くものを作画した本作の画面からは、全てを人間の手で描いていることにより生まれる、ある種の凄みさえ感じられます。」
ということで、これはかなり微妙な表現かもしれません。

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