今年の愛トリは、炎上した割には実際の展示は拍子抜けの印象がぬぐえないが、実は意外なところにかつてのトリエンナーレの面白さを彷彿とさせる展覧会があった。
「瀬戸現代美術展」
※愛トリの連携事業ではあるが、サテライト会場ではない。念の為。
瀬戸市には「旧産業技術総合研究所中部センター瀬戸サイト」という施設があり、もともとは瀬戸市立の窯業試験場として作られたのだが、さまざまな変遷のち、独立した研究所として陶磁器の素材や製作技術、デザイン等の研究・試作を行ってきて、7年前の2012年に閉所した。その後取り壊されもせず、現在は管理を任された瀬戸市が再利用の道を模索中だ。
少々扱いに困っていた感のあるこの施設が、今回の現代美術展の舞台。昭和を感じさせる作り&使われなくなった研究施設、という廃墟好きにはたまらないシチュエーションであり、建物を利用したインスタレーションを仕掛けるには申し分のないスペースだ。
展覧会の存在を知った瞬間から楽しみにしていたので、開催の3日目には足を運んでいた。観覧はなんと無料!(これは恐らく大人の事情で、有料の展覧会にすると場所代がかかってしまうのですよ。その代わりカンパは絶賛受付中)
受付で手渡されたガリ版刷りの作品一覧(本当にガリ版を使っているわけではなく、雰囲気がそんなふう)を片手にひとつひとつ部屋の中や窯場を覗いてゆく。基本的にひとつの部屋に1作家の作品という構成で、次々と部屋をのぞいてゆくのが楽しくて仕方なかった。
もともと瀬戸はものづくりの町で、工芸や実用品の制作には熱心であっても、特別に力を入れてアートを支援していた町ではないし、さびれかけた地方都市だし(文化にかけるお金もない)、正直、刺激的な作品があるとは期待していなかったが、とんでもない。とてつもないパワーを秘めた作品、独自の世界をこれでもかと展開する作品がずらりと並ぶ。
社会の歪みや不正を直接的に表している作品はないけれど、世界の見え方を変えてしまえるほどの面白い作品がたくさんある。
さらに、もともと個性のある建物をうまく利用して作品を配置しており、作品と場所が見事に呼応していた。美術館で展示したのでは決して生まれない独特の空間が広がっており、しかもその空間は内に閉じておらず、外の世界に向けて開かれている。とても良かった。
以下、ランダムに紹介。
葉栗里《quiet place》
一目惚れした作品。やわらかな木彫刻にアクリル絵の具で彩色。
造形も素敵だし、海の王子様的な世界観がクリティカルヒット。
植松ゆりか《Alpha and Omega》
これは衝撃度No1だった。再生のシンボルである蛇と生命の樹!と思ったら、木にぶら下がっているのは白骨化した動物もとい、石膏で固められたぬいぐるみ、しかも綿をぬいたやつですよ。ゾクゾクしました。
設楽陸《The Great Wall》
とにかく何か描かないと生きていられない、ぐらいの強烈なエネルギーが伝わってくる。
真塩かおり《Bla Bla Bla…》(右奥)
暗室に現像中の写真がぶら下がってるイメージ。この空間ならではの面白さ。
栗木義夫《午後3時半》
なぜこのタイトルがついたのか不思議だけど、感覚的には納得してしまう。
左:栗本百合子《windows》から階段を降りると
右:設楽知昭《アイロンとシャツ》 この部屋は1Fにあるけど1Fからは入れない秘密の部屋。
永田圭《飽和》
文字通りギュウギュウで笑える。でも転がり落ちる10秒前なのかも。
後藤あこ《room202》
粘土でできた大小さまざまな人の頭部が点在する室内。不条理とはこのこと。
文谷有佳里《なにもない風景を眺める》
この作家さん、愛トリの県美会場にも作品を出してます。
何かの形を表しているようで、けっして具体的な何かにはならない不思議な図形の集まりです。
左:塚本南波《温度計》すぐ隣に本物があってお茶目。
右:窯場の中にもともと設置されているブレーカー(たぶん)。
「節電」シールがかわいい。これは館内のあちこちに登場します。この施設が生きていた頃の名残。
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