名古屋市美術館で開催中の「モネ展」へ行ってきた。入場券売り場に行列ができていた。
行列の原因と思われる「印象・日の出」は、さすがというかやはりというか、特別扱い。赤いカーペットの特別スペースに手すり付き見学台が備え付けられ、専任の護衛がついていた。下世話な話だけど、保険金、どのくらいかかってるのかなぁ。
でも自分的イチ押しは「日の出」でも「睡蓮」でもなかったのさっ。(^・^)
まずは「日の出」の印象を。これは当時の他の画家たちの絵と比べると、相当の冒険だったのがわかる。事物の輪郭はすべて吹き飛び、本当に「色」しかないもんな。
海の青、空の青、船の黒、そして太陽の橙色と太陽を反射する海の橙色。画面にあるのはそれだけ。それで何が見事かというと、色の配分。
全面ほとんど、青とも灰色ともつかない微妙な寒色系の色に覆われたなか、ほんの1点、オレンジみたいな太陽が画面中央よりやや上に置かれている。その下には受け皿みたいにオレンジの筋が数本並ぶ。
それだけで、寒色の背景は海と空になり、頭の中のスクリーンには鮮やかに海から上る朝日が映し出されるから不思議。
もやもやした一面の寒色と、光を表すほんのわずかな暖色がすばらく効果的に使われていたのが、ロンドンのテムズ川にかかるチャリング・クロス橋を描いた作品。
この作品が目に入った時は、思わず「モネ先生、ついに行くとこまで行っちゃったなあ」とため息が出そうになった。ものの例えではなく、本当に灰色の霧の中にぼんやりと橋のシルエットが見えるだけの画面で、いくら霧のロンドンだからってここまで茫漠と描かなくてもいいものをと思ったのだ。で、その茫漠さから絵を救い出しているのが、ほんのわずかな朝日の色。少し離れて見ると、画面の奥からじんわりと光が滲み出しているような錯覚を起こす。ほとんど魔法(マジック)だ。すごく気に入って何度も眺め直した。
それに比べると、今回出展されていた睡蓮の作品は、今ひとつ輝きが足りなかったというか、あまり心惹かれなかった。十年ぐらい前に名古屋に来たモネ展では、睡蓮の作品が大小取り混ぜていくつも並び、あまりの迫力に圧倒された記憶が強すぎるのかな。
心惹かれなかったといえば、いっしょに連れて行った娘、どうやらモネとは相性が合わなかった上に、あまりの人の多さに疲れてしまって、始終不機嫌だった。
美術部にいるなら、有名どころは押さえておこうよと言って連れ出したのだが、なんだかもったいない。これならいっそ、ダンナや息子といっしょに大須で遊ばせておいたほうがよかったかも。
ちなみに娘の好みは、もっと現代に近くてポップなアートが好み。ニキ・ド・サンファルとか。→
★ それからクレーはオッケーなんだそうな。
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COMMENT
モネ
以前テレビで紹介されていたのですが、モネは晩年白内障になって、視力(というより視界)がどんどん落ちていたそうです。ご存知でしたら失礼。
>チャリング・クロス橋
これも画面で紹介された絵だと思うのですが、モネの目には実際、こう見えていたそうです。手術を勧められても「見え方が変わると絵が描けなくなるから」と断り続けたのだとか。最後にはとうとう手術を受けたのですが、その三年後に亡くなったそうで、果たして手術が彼にとって幸せだったかどうかは謎ですね。
は、そのテレビ番組ってこの展覧会の宣伝だったのかもしれません。
>ニキ・ド・サンファル
ほぉーこんな方がいらっしゃるのですね。でも、リンク先のをぱっと見た瞬間、日本の土偶(どぐう)や埴輪(はにわ)を連想しました。大地母神…確かに。娘さんもお目が高い!(^^)
Re:モネ
ただ意外に好き嫌いがある画家みたいで、娘だけでなく、実家の母もあまり合わなかったりします。
モネの白内障>
それは知っていたのですが、チャリング・クロス橋の頃から症状は出ていたのですね。それであの茫漠とした画面! 最低限の光と影以外、余分なものが削ぎ落とされていることを思うと、手術で視力を取り戻す恐怖というのはあり得たかもしれません。
>ニキ・ド・サンファル
この人はまた、ユニークなアートを作るんです。美術学校とは無縁だったせいか、色使いといい、造形といい、本当に自由奔放です。土偶に色づけしたような女性像のほかに、絵の具を埋めたキャンバスを銃で打ち抜いて作成する射撃アートなどという過激な試みもしてます。
娘の好みは微妙というか、トンでもないものに興味を惹かれるみたいで、まあ両親の趣味や好みを考え合わせればそれも仕方ないのかとあきらめてます(汗)
無題
絵を見にいったんだか、人の頭を見にいったんだか、という気になりますが、
そういう状況じゃないと日本で有名絵画は見られませんものね。
お嬢さまに同情いたします。
Re:黒山の人だかり
また、標準的中学生よりさらに身長が低いうちの娘、人にもまれてかなり見づらかったのはわかりますが、混み具合が先日のクレー&ピカソ展と同じ程度だったので、不機嫌だったのは、やはり絵に興味が持てなかったのでしょう。現代ものでないと食指が動かないみたいです。