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びおら弾きの微妙にズレた日々

単色なのになぜこんなにも饒舌?

豊田市美術館にて開催された、東山魁夷「唐招提寺御影堂障壁画」展の感想です。

ツイッターに流れてくる評判を聞くにつれ、これは5月中に行っておかねば、と焦っていた東山魁夷展。ところが、忙しくてなかなか思うように時間がとれなかった。
ちょうど、長久手フィルの定期演奏会が5月の最終日曜日に豊田のホールで開催されたので、なんとかハシゴできないかと考えたものの、友人といっしょに来ているし、ムリはできないなぁと諦めていたのだが……。
その友人も、実は東山魁夷展を見に行きたいと思っていた!(休憩中に発覚)
美術館までは歩いて10分強。閉館時間は17:30で、入館リミットが17時。演奏終了予定は16時半。そこでホールを出れば間に合うが、アンコールまで聞いていると、少なくとも10分は遅くなる。
というわけで、「亡き女王のためのパヴァーヌ」を後ろ髪引かれつつあきらめホールを出て、美術館までおよそ1キロの道のりを飛ぶように歩いた。入り口直前の200メートルは斜度12%のきっつい上り坂で、心臓がどうなるかと思ったが、なんとか無事にたどりついた。
ぜいはぁ言いながら展示室に入った私たちを迎えてくれたのは、緑青のモノトーン。静かに広がる日本海の荒波。静謐で豊穣な世界の入り口ですよ。


今回展示されているのは、唐招提寺の御影堂に奉納されている障壁画で、東山魁夷が10年がかりで製作したもの。
唐招提寺といえば、もちろん鑑真和上。御影堂には鑑真和上の座像がまつられているが、御影堂は2015年から5年間がかりの平成大修理中。障壁画は各地を巡回しているようだ。

この障壁画が豊田にもやってきた。だが、ただガラスケースに納めて展示してあるのではない。展示室にたたみと建具を作りつけた上で、リアルっぽいふすま絵として楽しめるようにしてある。が、照明の当て方が不思議で、薄暗い中から絵がほんのりと光を発しているように見え、お寺の中というよりは、幽玄の世界に迷い込んだよう。なんともまあ、凝った展示だ。

東山魁夷は、唐招提寺の障壁画を引き受けるにあたり、モデルとなる海と山を探し、主に日本海側の海や、奥飛騨~北アルプスの山々をスケッチしてまわった。さらに鑑真和上の故郷を描くにあたっては、実際に中国まで足を運んでいる。
ここで凄いなと思うのは、現地取材を重ねただけでなく、「中国の風景は水墨画でなくては描けない」と、新たに水墨画の手法に取り組んだ東山画伯のチャレンジ精神。

もともと単色(主に青~緑)で風景画を描いてきた画伯なので、墨の濃淡だけで風景を描く水墨画は、技法的にそんなに離れていないように思うのだが、よく見ると、筆の使い方が違う……気がする(絵の技法については門外漢なので、あまり突っ込まないでください)
緑青や紺青で描かれた日本の海や山の風景も奥深いのだが、それ以上に、墨で描かれた中国の風景は、何と言うべきか、一はけの線が、柳になり、鳥になり、風になり、水のそよぎにもなり、ものすごく雄弁なのだ。ある意味、写真よりも豊かなイメージが伝わってくる。

なぜ1本の線がさまざまなモノに見えてくるかについては、人間の認知機能に関わってくる話だが、画家というのは、その効果を最大限に利用してイメージを伝えるわけだ。墨のにじみや濃淡、筆が生み出すラインを利用して風景を表現する水墨画は、とても洗練された技法なのだなと思う。

美術館の展示室で見ると、ライティングは最適だし、解説もついているので、細部までよく見えてわかりやすい障壁画だが、これは、ぜひ、本来の御影堂におさまった形で拝見したい。早くてもあと2~3年待たなくてはいけないのかな。

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