先月下旬のこと、瀬戸市美術館で催された宮川香山展を見てきた。宮川香山というのは、明治時代の陶芸家で、主に欧米向けの輸出用陶器を作っていた職人であり窯元でもある。
マイセンやウエッジウッドを見ればわかると思うが、19世紀のヨーロッパにおいて、陶磁器は金銀財宝と同じ扱いを受けており、富の象徴でもあった。なので、とにかく豪勢な装飾が好まれる。
もともとヨーロッパでは中国由来の陶磁器が愛好されていたが、清が没落を始めると、日本が陶磁器の産地として注目され始め、また、そのころはうまい具合に日本としても輸出産業に力を入れていたので、海外向けの陶磁器は大量に作られ輸出された。その中でも宮川香山の作品は特に優れていたが、それらのほとんどは海外に出てしまったためか、日本ではなかなか注目されなかったらしい。
高浮彫岩滝二鷹花瓶
↑ 舌を噛みそうな名前だけども、要は形状をそのまま文字にしているだけで、意味的には「滝のほとりの岩に止まる二羽の鷹を超立体レリーフで表現した花瓶」ということになる。が、細部を見れば見るほど、書き込まれた文様の緻密さに驚くばかり。自然の様子をありのままに模写しているように見えながら、壺のデザインとしてまとまりを作っているところとか、もうどれだけ手間暇かけてるの? というすごさ。実際、この手の装飾壺は評価は高かったものの、手間とお金がかかりすぎるので、のちに香山はシンプルなデザインへと舵を切る。もちろんシンプルに見えて手の込んだ作品だ。
黄地青華朝顔図花瓶
↑ スッキリした形状だけども、色のコントラストが鮮やか。それに、壺の肩の部分に朝顔の葉を配置することで、立体感が出る。
その他、一面エビ茶色に見えながら、光を当てるとうっすらと柳が浮かび上がる壺など、造形ではなく釉薬や絵付けに工夫が凝らされるようになる。
このように一筋縄ではいかない作品が陶磁器以外の資料も含めておよそ150点。見応えありますわ……。そして本気を出した職人の恐ろしさを感じたり。どの作品も、気の遠くなるような細かい作業の積み重ねから生まれている。いったい何に突き動かされてここまで凝ることができるのか。職人たちは自ら生み出したものを商品と見なしていたのか、芸術作品と見ていたのか、それとも他の何かだったのだろうか?
また、この美術展ではじめて、音声ガイドというものを使ってみた。キャプションとは少し違う解説がはいっていたり、香山の人となりを示すプチエピソードが入っていたりして「へぇー」だった。一つ一つの作品とじっくり向き合うのはちょっとつらい、とか、ざっくり概要がわかればOKというときに便利かも。もちろん全作品をじっくり見ながら解説を聞けば余計に面白い。
とにかく一つ一つの作品に見どころがありすぎて、展示室が4つしかないのに、全部まわるのに一時間半かかりましたよ。
PR
COMMENT