本番直前のこの期に及んで、マーラーの伝記など読んでみた。
図書館で見つけたのがコレで→
近代音楽の創造者 マーラー・ドビュッシー・ストラヴィンスキー (大作曲家の世界)、パラパラとめくってみると図版が多いし、さらりと読めるかと思ったら、予想に反してなかなか濃い内容だった。特に人生の前半にボリュームが割かれている。マーラー家の祖先、どんな土地に暮らしていたか、両親の気質、兄弟姉妹のこと、どんな友人と付き合っていたかなどが詳しく書かれている。指揮者として極めて優秀だったにもかかわらず、仕事する先々で敵を作ってしまい(原因は彼がユダヤ人であったこととか、妥協を許さない性格が災いしたとか、まあいろいろ)、結果的にドイツ~東欧の様々な劇場を転々としなくてはならなかったこと、アルマ一筋かと思ったら、彼女に出逢うまでに何人かの女性と(主に歌手)関係を持っており、ただ、邪魔が入ったりして結果的に40才まで結婚できなかったらしい、ということもきっちり書かれていて、大変興味深かった。
読み終えた印象としては、「寿命を縮めた原因は、あきらかに仕事のしすぎでしょ」
某フィンランドの大作曲家と違い、マーラーに浪費癖はなく、むしろ堅実に生活設計のできるタイプで、もし音楽の才能がなければ父の跡を継いで実業家として成功していたに違いない。
生活のために指揮者として仕事口を見つける→就職に成功し、公演を成功させるもやがてケンカやトラブルでやめる→次の仕事につく、の繰り返し。非常にストレスフルな生活だったようだ。そのストレスを癒やすのが、毎年夏のシーズンオフに避暑地で取り組む作曲活動。マーラーの年譜を見ると、指揮者としての地位が上がれば上がるほど、作曲がハイペースになっていく印象を受ける。まるで仕事のストレスを作曲活動で解消するかのような勢いだ。
ただ、指揮者の仕事が心身ともに大変なのは当然として、それとは別の方向で作曲活動も大変な労力を必要とする。それがいくら世間の喧騒を忘れられる幸せな時間だとしてもだ。結局マーラーは年中働き詰めで(仕事だけでなく、家族や友人とのトラブルもよく起きた)、とうとう体を壊す(精神を壊さなかったのは凄いと思う)。
結局、グスタフ・マーラーとは、類まれな音楽の才能に恵まれ、音楽を生業にできたものの、音楽によって命を削られた1人の人間なのだろう。
臨終の床で、マーラーは妻に「自分の人生はまるで紙切れのようだった」と愚痴をこぼしたという。苦労の割に報われない人生だったと言いたかったのかもしれない。でも、マーラーの生み出した作品に接する時、彼の最良の部分がすべてそこに注ぎ込まれていることがわかる。悲嘆も喜びも、神の恩寵も、人生の何もかもが彼の曲の中には存在する。それはまるで、あらゆる感情を音楽で表現し、音楽に食われるかのように早逝してしまったモーツアルトを思い起こさせるのだ。
PR
COMMENT