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びおら弾きの微妙にズレた日々

スカボローフェア

「スカボローの市(いち)に行くのなら、あの女性(ひと)への伝言を頼みたい。彼女はかつて心から愛した人だった……」
という意味の言葉で始まるこの歌は、スコットランドに伝わる民謡である。ほんのり哀愁を漂わせたメロディにのせられた英語の言葉は痛いほどに美しいと思う。
 私が初めてこの曲に出会ったのは中学生の時。父のレコード棚にあった「Simon&Garfunkel The Greatest Hits」をプレイヤーに乗せたのが始まりである。
 その中に"Scarborough Fair/Canticle"つまり「スカボロー・フェア/詠唱」が入っていた。
 初めて聴いたときは、英語ばかりだし、どの曲も似たような音に聞こえて「何となく綺麗だな」くらいにしか思わなかった。当時やはりよく聴いていたカーペーンターズの方が、よっぽど耳に馴染んだ。
 ただ、当時いつもつるんでいた友人が、ビートルズやS&Gに入れ込んでいて、二人でよくお気に入りの曲を比べていたりしたので、必然的に繰り返し聴くようになって、ようやく本当の良さが伝わってきたのであった。

 ある時、歌詞カードを見ながら曲を聞いていて(そうすると、曲の意味がちゃんと聞き取れるから不思議)あるフレーズに心を射抜かれた思いをした。
 "She once was a true love of mine."と"Then she'll be a true love of mine"
 "true love"=恋人と訳すことを辞書できちんと知ったのはかなり後だが、そんなこと知らなくても意味は充分わかる。なんて素敵な響きの言葉なんだろうと思った。しかもこれは過去と未来でしか現れないから、現在はtrue love でないことがわかる。
 「かつては愛しい人だった」→「そうしたら(再び)愛しい人になる」
 ということは「愛しい人」になるためには何をすればいいんだ!
 その内容は次のとおり。

「針と糸を使わずにシャツを仕立てておくれ。海の水と波打ち際の間に1エーカーの土地を見つけて欲しい。その土地を皮の鎌で収穫し、ヒースの束にするんだ」
 そう、まるでかぐや姫が求婚者に与えたのと同じ、達成不可能な課題……。
 要するに「自分のことはあきらめて欲しい」と暗に伝えているわけで、よくよく聞いてみれば切ない歌なのである。

 また、この伝言を受け取るのがハーブであるあたりも興味深い。
 パセリ、セージ、ローズマリー、タイムがそれである。どれもかの地ではおなじみのハーブたちである。日本でいうネギやシソ、あるいはタンポポみたいなもの。
 この歌の主人公はふと目についたハーブたちに自分の思いを託したのであろうか。

 ところで、S&Gはこの古い民謡を取り上げる際に、オリジナルの歌をかぶせた。それが「詠唱」である。
 その内容は、「美しい山裾で、理由など忘れ去られた戦争のために兵士が人殺しを命じられ戦わされる」というものである。
 曲の中間部でスカボローフェアの歌詞と詠唱の歌詞が一行おきに歌われ、恋人への伝言と美しい山中で戦いにかり出される兵士の様子が交互に描き出される。
 美しいメロディと言葉が重なって得も言われぬ響きが生まれてくる。
 この響きに耳を傾けていると、一つの物語が流れ込んでくる気がする。あるいは幻聴なのかもしれないが。

 パセリ、セージ、ローズマリー、タイムに伝言を託したのは、きっと山裾で戦う一人の兵士。これから戦いが始まると知って、自分の命を危ぶみ、故郷に残してきた恋人に「自分のことは忘れてくれ」と伝えようとしたのだ。あるいは自分の生還は非常に難しいから故郷でそれなりの幸せを見つけてくれと言いたかったのかも。

 なんとも悲しく切ない歌である。この悲しみは翻って戦争に対する非難となる。「スカボロー・フェア/詠唱」が反戦歌としてもとりあげられるのはこのためであろう。
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