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びおら弾きの微妙にズレた日々

スカボローフェア探検隊

*探検隊結成のいきさつ*
このエッセイは「夜間飛行」のまりか様との共同企画です。
前回のエッセイでスカボロー・フェアについて書いたところ、曲の解説をリクエストして下さったまりか様から「スカボローフェアの原曲はなんと10番まである」ということを教えて頂きました。
その後、二人してこの曲の由来etc...について調べてみますと、いろいろ面白い事柄が浮かび上がってきたのです。
二人とも好奇心をひどく刺激され、スカボロー・フェア探検隊と銘打ってエッセイを連動アップすることになりました。
イギリスのフォークソングの奥深い世界に少しでも触れることができれば幸いです。
なお、まりか様の探検レポートはこちらです。イギリス帰りのご友人との会話形式で、大変面白い考察が展開されています。
*探検レポート・O-bake版*
S&Gが取り上げて以来、スカボロー・フェアといえば、あの「詠唱」とセットになっている美しい調べを思い浮かべる人が大多数だろう。特に日本では。
しかし、スカボロー・フェアは、もともとスコットランドの民謡である。中世後期、スカボローという港町の市(フェア)が賑やかだった頃に発生し、数百年に渡って吟遊詩人が歌い継ぎ、伝承曲、つまりフォークソングとなって現在にいたる。

伝承曲なので様々な歌詞のパターンが存在し、ここで取り上げた歌詞の他に、マザーグース風になっていたり、男女が交互に歌い合う相聞歌のバージョンなどがある。だが基本的には、ある男性が元恋人に無理難題をふっかけるという内容である。

参考資料として紹介してある歌詞対訳を見てもらうと、たとえば、針仕事なしにシャツを作れとある。これはシャツの形に布を織れと言うことだ。また、海の泡と砂の間に土地を見つけろとある。もちろんそんな場所などありはしない。同様の無理難題がえんえんと続き、極めつけが最後に出てくる「私に求婚しなさい」という一節だ。この歌が発生した中世という時代、女性から男性にプロポーズするなど非常識も甚だしいのである。

いったいどうして、愛する女性、しかも過去の恋人にこんな無茶な要求をつきつけるのだろうか。マザーグースのようにブラックなナンセンスが込められているとでも?

一つの答えとして、この男性は女性と寄りを戻すつもりがないと婉曲的に伝えたがっていると考えられる。この解釈については「スカボローフェア」の記事で触れている。

また この歌がイギリスの古いバラード「妖精騎士」に起源を持つという説がある。それによれば、この歌は問答歌であるという。魔界の住人が、旅人に謎かけ(つまり無理難題の伝言)をして、もし旅人がまともに返答したならさらってゆこうという算段なのである。そのたくらみを見抜いた旅人は「パセリ、セージ、ローズマリー、タイム」とひたすらハーブの名を唱えて魔よけとし、うまく逃げおおせたという話である。

さらに、「恋人に去られた男の嘆き」という解釈がある。恋人に去られた男性が愛の強さを求めて無理難題を彼女に課すのである。そう考えると歌詞の筋が通るし、心理面から考えても非常に興味深い。自分的にはこの説をとりたいと思う。

この解釈の場合、男性は必ずしも恋人を失っていなくても成り立つと思う。どういうことかというと、自分から彼女への思いは確固たるものであると、とりあえず信じられる一方で、彼女が自分のことをどれほど真剣に愛しているかは測りようがないために、目に見える方法で確認したがっていると考えられるからだ。

たとえ愛を告げられたとしても、それはただの言葉にすぎず、本人でない限り、愛の重さは分かりようがない。だから男は行動で愛を証明して欲しいと望むわけだ。どんなに難題を言いつけられても、自分を愛しているならやって見せてくれるだろうか。たとえできなくても、その気だけは見せてくれるだろうか、と。不可能ないいつけでも、愛のために挑戦してくれたら、その時こそ愛は真実だと認められるわけである。

愛する人に不可能な仕事をいいつけることによって真実を確かめるという発想。いささかアブナイ気もしないではないが、誰しも愛を目に見える形で証明して欲しいと思ったことは、多少なりともあるのではないだろうか。

「ヤマアラシのジレンマ」という例えにもあるように、思慕がつのればつのるほど、相手を信じられなくなるというパラドックスがある。これは、裏切られた経験を持ち、より一層信じられる相手を必要とする人間ほど、相手の気持ちを何らかの形で確かめたくなるのでやっかいだ。この歌詞は、その辺りの心理を見事についていると思う。

スカボロー・フェアが何百年もの間、延々と歌い継がれてきたのは、メロディが美しいだけでなく、どんな解釈をするにしても人の心のあやを端的に表している歌詞の力によるものではないかと思う次第である。

*主な参考サイト及びページ*
About the Song Scarborough Fair (現在は閉鎖)
「MID」音楽エッセイコーナー内 スカボロー・フェア(現在は閉鎖)
「不連続な間奏曲」フォークロアとファンタジーコーナー内 スカボロー・フェア

※この記事は2003年5月に本家サイト(閉鎖)に載せたものを転載しています。

*歌詞対訳*
Are you going to Scarborough Fair?
Parsley, sage, rosemary and thyme
Remember me to one who lives there
For once she was a true love of mine

Have her make me a cambric shirtp
Parsley, sage, rosemary and thyme
Without no seam nor fine needle work
And then she'll be a true love of mine

Tell her to weave it in a sycamore wood lane
Parsley, sage, rosemary and thyme
And gather it all with a basket of flowers
And then she'll be a true love of mine

Have her wash it in yonder dry well
Parsley, sage, rosemary and thyme
where water ne'er sprung nor drop of rain fell
And then she'll be a true love of mine

Have her find me an acre of land
Parsley, sage, rosemary and thyme
Between the sea foam and over the sand
And then she'll be a true love of mine

Plow the land with the horn of a lamb
Parsley, sage, rosemary and thyme
Then sow some seeds from north of the dam
And then she'll be a true love of mine

Tell her to reap it with a sickle of leather
Parsley, sage, rosemary and thyme
And gather it all in a bunch of heather
And then she'll be a true love of mine

If she tells me she can't, I'll reply
Parsley, sage, rosemary and thyme
Let me know that at least she will try
And then she'll be a true love of mine

Love imposes impossible tasks
Parsley, sage, rosemary and thyme
Though not more than any heart asks
And I must know she's a true love of mine

Dear, when thou has finished thy task
Parsley, sage, rosemary and thyme
Come to me, my hand for to ask
For thou then art a true love of mine

スカボローの市へ出かけるならば、
パセリにセージにローズマリーにタイム。
そこに住むあの人に私からの伝言を伝えておくれ。
その人はかつて私の恋人だったのだから。

私のために麻のシャツを作らせて。
パセリにセージにローズマリーにタイム。
縫いあとも細かい針仕事もなしに。(注1)
それができたら彼女は私の恋人。

そのシャツを楓の小道で織りなさいと伝えて。
パセリにセージにローズマリーにタイム。
それを花のかごに集めるように。(注2)
それができたら彼女は私の恋人。

そのシャツを向こうの涸れ井戸で洗わせて。
パセリにセージにローズマリーにタイム。
水が湧くことも一滴の雨が落ちたこともないその場所で。
それができたら彼女は私の恋人。

1エーカーの土地を探させて。
パセリにセージにローズマリーにタイム。
海の泡と砂の間に。
それができたら彼女は私の恋人。

その土地を仔牛の角で耕させて。
パセリにセージにローズマリーにタイム。
そこに堰の北の地から持ってきた種を播くように。(注3)
それができたら彼女は私の恋人。

その耕地を皮の鎌で収穫しなさいと伝えて。
パセリにセージにローズマリーにタイム。
刈ったものをまとめてヒースの束を作るように。
それができたら彼女は私の恋人。

もしも彼女ができないと言ったなら、私はこう答えよう。
パセリにセージにローズマリーにタイム。
少なくとも試みるつもりがあることだけは知らせて欲しいと。
それができたら彼女は私の恋人。

愛とは無理難題を課すもの。
パセリにセージにローズマリーにタイム。
しかしどんな恋心とてそのくらいの難題は求めるもの。(注4)
そして私は、あの人が私の恋人であると知らねばならぬ。

愛しき者よ、そなたが、かの難題を終えたならば。
パセリにセージにローズマリーにタイム。
我がもとへ、結婚の約束を求めて来るがよい。(注5)
その時こそ我が恋人であるのだから。

拙訳 by O-bake

*** 訳 注 ***
注1
針仕事をせずにシャツを作る→始めからシャツの形に織り上げる
注2
楓の花はかごの形をしているらしい。だから「花のかご」。しかし楓の花はさわるとすぐに壊れてしまう。
注3
スカボローが実在する場所から推測すると、「堰(ダム)の北の地」とは、すなわち「ムーア」と呼ばれる、ヒースと岩場だらけの荒野ではないかと思われる。もし、ヒースの種を持ち帰ったとして、海辺の土地で荒れ地を好むヒースは育つんだろうか。
注4
どのような心が求める要求よりは多くない(直訳)→どんな(恋)心も、それ(=これまでに挙げた無理難題)くらいの要求はする。
注5
ask one's hand for~で「結婚の申し込みをする」という意味がある。基本的にプロポーズは男性が女性に対して行うものだから、彼女にプロポーズさせるという発想はやはり逆説的で、この歌詞の中では筋が通ると思う。
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