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びおら弾きの微妙にズレた日々

ハロウィンスペシャルその2 ベートーベン御大の話

ハロウィン祭り用エッセイ、2つ目はベートーベンです。彼はロマン派の代表選手。これがまた、破天荒な人生なのです。

作曲家として、あまりにも有名なベートーベン。その伝記はシントラーをはじめ、多くの人間が語ってきたが、あまりにも偉大な曲を書き続けたベートーベンの、人間的側面についてはどう扱ってきたのだろう。
実のところ、ベートーベンは大変扱いにくい人物だったらしい。あのハイドンでさえ、ベートーベンを弟子に取ったものの、あまりに生意気なのでさじを投げ気味で、ユーモアたっぷりに「蒙古大王」とあだ名をつけたぐらいだ。

ひの氏の伝記によれば、ベートーベンは気性が激しく、怒るときはとことん激しく怒るが、機嫌のいいときはキスと抱擁の嵐。また、恋多き人生で、貴族のお嬢さんに身分違いの恋を何度もしては痛い思いをする、の繰り返しだったという。(その相手の中に「テレーゼ」という少女がいたのはあまりに有名)
ベートーベンを理解しない人間が多かったのではなく、逆に振り回された友人・知人は数知れず、というところなのだ。
それでいてあの神業のような名曲を数多く生み出したとは、詳しく知れば知るほど、ベートーベンという存在そのものが、すでに奇跡だったのだと思える。

結局、終生独身だったベートーベン。想像に違わず、身の回りの整理や身なりに気を使うのはまるで苦手で、ウィーン郊外の町で避暑兼作曲をしているときなど、いい加減な格好で散歩に出ていたら、乞食と間違われ、警察に逮捕されたというエピソードがある。
奥さんの代わりにベートーベンの身の回りの世話をするのは、主に若い弟子や秘書。もう少し広い範囲(家捜しや裁判手続きなど)では、ベートーベンの親友や熱烈なパトロンたちだった。彼らは尊敬する音楽家から、相当無茶な頼みを何度も受けたようだが、律儀にそれをこなした。(こなせない場合は、嘆き節の手紙→怒り→絶交が待っている^^;)
ベートーベンはそんな友人やパトロンに深く感謝しつつも、ついつい他愛ないことで大喧嘩をはじめ、絶交してしまう。でも、しばらくするとまた仲が戻る、の繰り返しだった。それは二人の弟とも同じことだったらしい。この激しさは親ゆずりの部分もあるし、幼い頃、父によってピアノ演奏に引きずりまわされたため、まともな教育を受けられなかったせいもあったという。何より、耳の悪さから来るコミュニケーションの行き違いがあるのは当然のこと。

こうしてすっかり性格が偏っていたベートーベンの思い込みの激しさは相当なもので、いったん人を愛すると、恐ろしいまでの独占欲を発揮する。あまりの束縛に、愛された者がひと言でも悲鳴をあげたり、ほかの人間と親しく付き合おうものなら、それまでの愛情は一気に憎しみへと変化する。
一番の被害者が甥っ子のカールだった。彼は不良少年ではない。ただ、彼のあらゆる言動が、ベートーベンにとって不安の種だっただけだ。ベートーベンは、大切なカールが自分から離れていくのがどうしても許せず、彼をがんじがらめにして、結局は潰してしまったのだった。

ベートーベンの強い思い込みはほかにもいろいろある。一番大きなものが、自分のことを「選ばれた存在、または精神的な貴族」と信じていたことだろう。身分社会が歴然と存在するウィーンで、ベートーベンは生まれの低さを否定するかのごとく、そう信じつづけ、音楽で表現した。彼は、ふりかかる苦悩を、選ばれたものにのみ課せられる試練だと信じた。

そうして生まれた音楽がいかに斬新で強靭で優れたものであるかは周知の事実だ。

ひの氏はあとがきで、ご自身のエピソードを明かしている。
ひの氏がまだ音大生だったころ、バイオリンの講師に「どんな曲を弾きたいか」と尋ねられたので、即座に「ベートーベンのバイオリン協奏曲」と答えた。すると、講師は「女子供にベートーベンやブラームスが弾けるか!」と返した。
明らかに女性を差別する発言だ。当然ひの氏は反論したが、相手にされなかった。だが後に、念願かなってそのコンチェルトを弾いたとき、ひの氏は「女子供に……」の意味を実感したのだという。
ベートーベンのバイオリン協奏曲は、譜面づらはさほど難しくなくても、本質的にはやわな精神を寄せ付けない強靭さが必要だということだ。

僭越ながら、管理人自身の体験を披露すると、本格的なオーケストラ演奏に復帰して最初の曲が第九だった。何度も経験のある曲だし、ノリがいいので、調子に乗ってゴウゴウ弾いた。すると、体が壊れそうになってあわてて病院にすっ飛んでいく羽目になった。手を痛めるとか肩を壊すというのとは違う。内蔵(具体的には心臓)に来るのだ。精神的に曲の迫力についていこうとして、気づかないうちに全身に負担をかけていたらしい。あの時は本気で感じた。
「恐るべし、ベートーベン」

※この記事はひのまどか著「ベートーベン―運命は扉をたたく」を参考にしました。
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