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びおら弾きの微妙にズレた日々(再)

音楽・アート(たまにアニメ)に関わる由無し事を地層のように積み上げてきたブログです。

   

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ハロウィンスペシャル その3 時代の潮目

ハロウィンスペシャルのまとめです。ハイドンとベートーベンの間に横たわる溝は、そのまま古典派とロマン派の溝ではないだろうかと思って、ちょこっと書いてみました。

ハイドンと、ベートーベン。二人とも時代を代表する偉大な作曲家だった。だが、師弟関係にあったこの二人は、かなりそりが合わなかった。ハイドンにとってベートーベンは、才気溢れるが生意気で扱いにくい弟子であり、ベートーベンにとってハイドンは、ろくに弟子の面倒を見る気がないご老体と映ったことだろう。

実際はと言うと、当時仕事が立て込んでいたハイドンは、ベートーベンに作曲技法の本を与え、宿題を出して提出させ、気になる部分をチェックしていたものの、そのすべてに目を通すことはせず、ほとんど自習にまかせていたようだ。もともとベートーベンには才能があると見込んでのことだろうが、例えば、彼の提出した作曲に「ここは違う」と指摘しようものなら「この音の方が効果的です」と反撃をくらうこともあったらしい。

まるでボタンの変え違えを見ているようだが、それもそうだ。まず生い立ちからして全然違う。

ハイドンは幼い頃から他人の中で生きてきたものの、育った家庭は温かく(母は宮廷料理人、父は車大工で歌の得意なマイスター)、きちんと躾を受けていた。成人してからは宮廷音楽家として30年もの間、侯爵家に仕え、王侯貴族のために音楽を書きつづけた。彼は終生、身の回りをきちんとすることを忘れなかった。

ベートーベンが育った家庭にいたのは、笑わない母と大酒のみの二流テノール歌手だった父。父は息子にろくな教育を受けさせず、ピアノばかり弾かせ、演奏旅行に連れまわした。短期で怒りっぽい父のやり方はかなり暴力的で、一説によると、ベートーベンの耳が悪くなったのは幼い頃、父親にしたたか殴られたせいだともいう。その結果、ベートーベンがどんな性格になったかは、ひの氏の伝記が語る通りだ。

また、ハイドンが演奏旅行についてこないかと誘ったら、ベートーベンは付き人をやらされるのはまっぴらだと感じて断った。
ハイドンとしては、日ごろあまり面倒を見ていない弟子に勉強の機会を与えるつもりだったにもかかわらず、だ。
もともとハイドンは人さまの作品から技を「盗む」やりかたで作曲の技法を覚えた。基礎は本で学んだが、それ以上のことは、自分が膨大な数の曲を演奏したり、あるいは作った曲を自分の指揮する楽団に演奏させて効果を計ったり、という実地的なやり方で学んだ。
だから、ベートーベンにも同じやり方で、と思ったのだろうが、そこは大きな計算違いだった。ベートーベンはすでに自分の中にすべての音楽を持っていたと言ってもいい。あとはHow toさえ分かればどんどん溢れ出すから、それ以外のことは余計なお世話だった。

こうして比べてみると、この師匠と弟子が分かり合えないのは仕方がないと思われるが、原因はそれだけではなかった。二人の間には時代の変わり目が挟まっている。どういうことかというと、ベートーベンの青年期であり、ハイドンにとって晩年にあたるこの時代、社会的には、ナポレオンによるウィーン侵攻という事件があった。平民出身のナポレオンが皇帝を名乗ることは衝撃的だったはずだし、その前にはヨーロッパ中を驚かせたフランス革命がある。市民層は着々と力をつけていた。そして、この時期がちょうど、音楽が古典派からロマン派へと移り変わる潮目だったのだ。

古典派というのは、音楽が貴族のもので、宮仕えが音楽家の頂点だった時代の音楽。その当時、音楽家は立派な職人だった。音楽には新しさが求められるが、それは喜ばしい新しさでなくてはいけないし、貴族の理解の範疇を超えるようでもいけない。そしてハイドンは古典派として大成した。
いっぽう、ロマン派が台頭を始めたのは、市民がコンサートホールに足を運ぶようになり、作曲家が宮仕えをしなくても食べていけるようになった時代。音楽家が芸術家としての自覚を持ち、聞き手の主体は市民となり、芸術としての音楽が追究できるようになった時代だ。ベートーベンはこの時代に属する作曲家だ。

音楽が貴族から市民の手へ。ハイドンとベートーベンのすれ違いは社会の移り変わりを表していたのだった。

とはいえ、時代を先取りしたベートーベンの曲が真の理解を得るのは、もう少し先のことだ。さらに、19~20世紀にかけてあまり高い評価を受けなかったハイドンの価値が見直されるようになったのは、つい最近のことだと聞く。
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