ベートーベンの交響曲第7番は、3番「英雄」・5番「運命」・6番「田園」に負けず劣らず有名で好む人の多い交響曲です(9番「合唱」は別格)。1811年から1812年にかけて作曲され、第二楽章がとても有名です。この楽章は確かに素晴らしいと思います。地味ハデというか、渋くて荘厳。
7番の第二楽章は、一応三部形式、つまりA-B-A’という形をとっています。A及びA’が変奏曲として展開されており、これは作り方に何かと約束ごとの多い交響曲という分野の中で、非常に独創的な手法だそうです。ベートーベンは作曲作法破りが非常に好きなお方でした。
基本となる主題のメロディはいたってシンプル。始まり方もいたってシンプルです。
まずビオラ&チェロが主題を厳かに奏でます。他の楽器はほとんどお休み。次に主題はバイオリンパートへ移り、ビオラ&チェロは伴奏にまわります。さらに木管楽器へと主題が移り弦楽器は伴奏へ――。これを繰返し、全パートが参加するころには、主題が堂々と、しかも重々しく鳴り響くことになります。この瞬間が、またなんとも言えずこたえられません。
クラシックファンでなくとも、生のコンサートで主題が次々に移っていく荘厳な様子を見れば、否応なしに感動するはずです。
しかしこの交響曲の真骨頂は、荘厳な2楽章より、むしろ躍動感あふれる3楽章や4楽章にあります。まるでリズムの嵐。一つのリズムが矢継ぎ早にさまざまに展開されてこの交響曲を支配していると言っても過言ではありません。ついつい踊り出したくなるようなスピーディな曲の展開。一通り聞き終えるとアドレナリンが確実に増えているのがわかります。車を運転している時に聞くと、ついアクセル踏みこんでしまいます。とにかく、楽しい。
なぜ、こんなに楽しいのでしょう。いい加減ながらも、ネコのような脳みそをしぼってみました。
推察1
第一楽章は上昇音階の嵐。
「ドレミファソラシド」がそのまんまモチーフとして使われています。これを何度も聞かされれば、下向きだった気分もおのずと上昇するもの
推察2
第二楽章以外はすべてリズムが跳ねています。付点8分音符+16分音符の組み合わせ、いわゆる「タッカ」のリズムが随所に表れて、その結果、躍動感あふれた印象が強くのこります。
推察3
絶えずきざみ続けるリズムセクション(含ビオラ)のおかげで曲全体がにぎやか。言いかえれば少々騒がしくもあります。これは宴会効果とでも言うのでしょうか、飲み屋のざわめきにも近いものがあります。
推察4
とどめはやはり、第四楽章の吼えるホルンでしょう。「パーパ、パパパパ…」と勢い良く鳴るホルン、実は音域的に言うと非常に出しづらい高音なのだそうです。確かに演奏会でみると、皆真っ赤な顔で汗タラタラかきながら吹いてます。でも実に楽しそう。ここは有名な見せ場なのですよ、ホルン吹きにとっては。そして、聞く側としてどうかというと、まるで象の遠吠え(!)妙に盛り上がってしまいます。
7番は「酔っ払い」の音楽だというのを聞いたことがあります。何に酔っているかというと、ズバリ、ベートーベンが自分の才能に酔っているのです。意欲的な交響曲第5番、第6番を続けて発表し、名声を得た彼は、7番・8番を書いた頃は充電期間を終え、心身ともに充実していたようです。(まだ耳は聞こえていたらしいです)作曲者として一番脂の乗った時期に作られたのが交響曲第7番(そして8番)なのです。
さあ、音楽の神、ミューズの祝福に乾杯して踊りましょう! そのまま酔いつぶれてへたるのが凡人、芸術の高みへ登るのが楽聖、というところでしょうか。
おすすめCD
クラウディオ・アバド指揮 ウィーンフィル演奏で7番&8番がカップリングされているものがGOOD。ジャケットも、クリムトの絵で非常に美しいです。
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