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びおら弾きの微妙にズレた日々(再)

音楽・アート(たまにアニメ)に関わる由無し事を地層のように積み上げてきたブログです。

   

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その時、ホールは神殿だった

ブルックナー練習記の総仕上げ。
いよいよ演奏会本番の日がやってくる。

メイン曲に力がこもっているのはもちろん、オープニングや協奏曲にもネタが仕込んであってお客様をあっと言わせる仕掛けで、こんなにサービス精神あふれた演奏会はプロ・アマ含めて、なかなか見られないのではないかと手前味噌をかましますよ。

実際、サービスしすぎて、終了予定時間を大幅にオーバーし、全体として3時間近くに渡る長い長いコンサートとなってしまったが、会場のお客様はほとんど物音一つ立てず、イビキもなく(意外なほど寝ている人は見当たらなかった)、最後まで真剣に聞いてくださった様子で、この点については、本当に感謝しかない。

プログラムは次の通り
ワーグナー 楽劇「ニュルンベルグのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
バッハ 2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV1043
ブルックナー 交響曲第8番(ハース版)
※正式な演奏会情報はこちらへ→

マイスタージンガー

比較的ゆったりしたテンボ、なおかつ歌うべき場所ではたっぷりと鳴らす、重厚なマイスターだったと思う。細かい音符のところはずいぶん助かったし、気持よく弾けたが、逆に一つ一つの音をきちんと弾かなくてはならず、基礎力が問われる恐ろしいテンポでもあった。
歌うようなテンポ……。実は終結部が演奏会用終止ではなく、そのまま第一幕冒頭の合唱につながるというサプライズが用意されていた。
「そろそろ曲が終わるな」というころ、舞台後方(パイプオルガン付近)P席の観客がすっくと立ち上がり、合唱隊に変身する。いわゆるフラッシュモブで、オルガンも加わり、非常に見事な合唱が響き渡った。弦楽器の後方部隊は、合唱の間はずっと休みなので、内心ニヤニヤしながら静かに聞き入っていた。こんなマイスター、おそらく後にも先にもできないと思う。


2つのヴァイオリンのための協奏曲

これはもう、自分が小さい頃からよく家のレコードで聞いていたし、もともとバッハは大好きなので、ぜひとも弾きたかった曲。他の2曲と違い、室内楽のなので編成も小さくしてある。ビオラの場合、メイン曲が5プルート(10人)に対し、バッハは3プルート半(7人)。本来は3プルートあれば十分なところ、なぜか自分が強引に割り込んでしまった感ありありで、よほど降り番を申し出ようかと悩んだが、最終的には乗った。その代わり音量はごく控えめで。バッハだからといって、バロック風の弾き方をするようにとの指示はなく、ブルックナーと同じような弓使いで弾いたが、この「モダン」な弾き方は意外と評判が良かった。
バッハに仕込まれたサプライズは2つ。まず、見た目も奏者も美しいチェンバロが入ったこと。チェンバロの音のおかげで、ずいぶん落ち着いて弾けた。
もうひとつは、コンサートマスターたっての希望で、3楽章にヘルメスベルガーのカデンツァが入ったこと。このカデンツァが素晴らしくて、自分などはついつい、ベートーベンのバイオリン協奏曲のカデンツァを思い出し、あの長大さに負けないくらい中身の濃いカデンツァだなあと、うっとりしながら聞き入っていた。


ブルックナー 交響曲第8番

この長大なメイン曲に仕込まれたサプライズはやはり演奏時間だろうか。演奏者は前もって90分超えを覚悟していたが、お客さま――特に「ブルックナーて何?」という人はまさかこれほど長いシンフォニーがあるとは予想すらしなかっただろう。
普通は80分前後で終わることの多いこの曲、今回の演奏時間は95分。体感的には確かに長かったけれども、心理的にはあっという間に終わってしまった気がするという、実に不思議な95分だった。
ゆっくりだけども、不自然に重いのではなく、大きなリズムに合わせていたら自然とこのテンポに落ち着いてしまったという感覚があるせいだろう。
演奏中は、少しでも良い音、正しい音を出すこと、まわりに合わせることに集中し、正直なところ感慨に浸る余裕は全然なかった。自分が楽しむよりは、お客様に少しでも良い音を届けるのが優先事項だし、ただでさえ長い上に演奏の質がアレだと非常に申し訳ないので、この時ばかりは真面目に真剣に弾いた。(もちろん、自分が楽しめないのに他人を楽しませることができるか、という考え方もよく知っている)。
必死で弾き続けて4楽章のコーダまで来て、全力で音を刻んでいると、あと10小節で終わるというころ、急に心拍数が上がって驚いた。バタバタ走り回って急に立ち止まったりすると、心臓がバクバクいうが、まさにあんな感じ。演奏会中に動悸に襲われるなんてまったく初めてのことで、それだけパワーを持っていかれる曲なんだなあと、恐ろしささえ感じた。
演奏が終わると、異様に大きく長い拍手で、それでようやく、この演奏会はうまくいったらしい、おそらく神的な何かを降ろすことができたのだろうと実感することができた。


雑感もろもろ

すっかり名物になっているコンサートマスターのHUP(※ヒップアップの頭文字らしいです。おしりをピョンピョン浮かせたり、中腰で弾くことで音に凄みと迫力を加える技術だと思われます→訂正:コンマス自身の解説によると、Hip up Pointの略だそうです。ちなみにこれを「ハップ」と発音するのは関東地域の人間だそうで…/以下略)。
今回は、セカンドバイオリンのトップにも伝染した。1stバイオリンと2ndバイオリンでは、まあ当然だけども、思い入れを込める場所が少しずつ違うので、ビオラの場所からだと、右と左で交互にHUPしているのが手に取るようにわかる。おまけに楽器の配置は1stと2ndが指揮者をはさんで向かい合う対向配置。結果的にどう見えたかというと、もぐらたたき。もぐらたたきを見て盛り上がるなんて、これまでにちょっとない体験だ。
今後、HUPのないバイオリンパートには物足りなさを感じるに違いない。

本番前の最後の一週間は、身体の中に音符がパンパンに詰まっているような状態で、常に頭の中でブル8のどこかのフレーズが鳴り響き、頭を傾けると耳から音符がこぼれてきそうな有り様だった。目の下にはクマが住みつくし。このクマの正体はきっと細かな♪の集合体。
ブラームスやベートーベンならまだしも、ブルックナーのしかも8番を心のうちに抱え込むというのは、単に音を記憶するという作業に終わらず、一つの宇宙を抱えるようなもので、身体にとっても精神にとっても、なかなか大変な事態だったのだと思う。もちろん意識や無意識の容量など測る術もなければ、そもそも「容量」自体存在するかどうかもわからないのだけどね。
心身に溜め込んだ大量の音符は、本番で思い切り吐き出して、もうおしまい。次はもっとひどい(褒め言葉)マーラーが待っている。

最後に、企画・運営に関わったスタッフの皆さんへの感謝を。非常にレベルが高く、数々のトラブルやピンチを乗り越え成功にこぎつけた仕事ぶりは、まったく素晴らしいとしか言いようがなく、良いオーケストラに引きずり込まれたものだと(もちろん、反省点も課題もあるけれど)感謝している。
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