びおら弾きの微妙にズレた日々

ジークフリート本番にてローゲ様ご降臨

愛知祝祭管弦楽団による「ニーベルングの指環」第二夜「ジークフリート」が無事に終演した。

各方面からお褒めの言葉を頂き、終わりよければすべてよし、とはいうものの、ジークフリート成功までの道のりは、他人事のような言い草だけども、さぞかし大変だっただろうと思う。

楽屋のモニター越しに見る舞台の緞帳
今回はなんと、開演時に緞帳が上がる

とにかく、会場問題。いつも利用していた芸術劇場のコンサートホールが改修工事のため使用不可。同じ建物内にある大ホールも同じく工事中(血も涙もないスケジュールだこと)。会場探しに奔走した結果、なんと改修工事が終わったばかりの御園座で演奏できることになった! しかし、本来歌舞伎用のホールでオーケストラの演奏ができるのか? 音響は? そもそも反響板とか譜面台とかの備品はあるのか? と、問題が山積み。

それらを祝祭管スタッフ(もはや「カンパニー」と呼ばれていますが)は少しずつ解決してゆき、最終的には目を見張るような舞台に仕上がった。これは本当に素晴らしいと思う。心配されていた音響については、賛否両論あったようだが(というか、座る位置によってかなり違ったらしい)、結果オーライ。



奏者としても非常に優秀なスタッフたち、すごいなーと、いつも感嘆しながら演奏に参加させてもらっていた管理人だったが、今回は、予想外のピンチが!
うっかり職替えした先がサービス業で、土日が稼ぎ時。休日は完全にシフト制。オケ練があるからといって、おいそれとは休みをとれない職場になってしまった。いっときはリタイアも考えた。が、あと本番まであと5ヶ月という時点で離脱するのは悔しすぎる。ジワジワと職場で根回しし、どうにか前日リハ&本番、さらには半分くらいの練習日を確保することに成功した。まあ、それでも練習不足(この曲は合奏に参加しないと上手くならない)は否めず、本番は違う意味で悔しい思いをするのだが。

練習はとても楽しかった。参加するたびに曲の内容と構成が少しずつ腑に落ちてくるし、特に後半、歌手陣が参加するようになってからは音楽に命が吹き込まれていく様子を目の当たりにし、また音楽の網の目が手に取るようにわかって、自分がその一部になっているということに感激したりもした。

ところが本番、魔物が降りてきまして。
一幕を演奏中、オケ全体が噛み合わないイヤーな感じがヒタヒタと……。それどころか、明らかにパートの中でズレている。(だれだ、走っているのは? はっ、まさか自分も? いやいや、みんな落ち着け)みたいな。
そこでトップ氏が大変お怒りになりまして、私も時々ズレたりするのを自覚しているので、2幕以降はひたすら合わせることに腐心して、楽しむのは二の次に。要は、聞きに来てくれる人が楽しんでくれればいいのだ。

そして二幕。始まる直前に予定外の団長のアナウンスが。実は、タイトルロールの歌手さんが体調不良で、それでも最後まで頑張りますので応援してください、というような内容。実は歌いきれるかどうか危ぶまれるレベルだったとも聞く。確かに、喉の調子がよくないことは前もって知っていたが、そこまでとは、と驚いた。すると舞台袖に団長氏がやってきて「ジークフリートに念を送ってあげてください」と。念を送るだけでどうにかなるならいくらでも、と思ったが大丈夫なのか。

不安を抱えながら始まった2幕、森のささやきが始まり、やがて全幕中最強に面白いシーンがやってきた。

ジークフリート奏でる、超絶に下手くそな葦笛。


実際に演奏するのはコーラングレイの奏者なのだが、下手くそっぷりが最高にイケてるうえ、小鳥役の子どもたちが頭を抱えて悶絶し、さらには指揮者とコンマスまで加わってひっくり返るのだから、対岸にいる私たちは笑いを堪えるので必死。でも、小鳥たち、けなげにもジークフリートに頑張れとエールを送る。ジークフリート氏、これでいくらか元気を取り戻す。
続くは、お得意の角笛を吹き鳴らすシーン。ここは、ホルンの首席奏者が舞台前に出てきて、超絶技巧満載の難しい旋律を高らかに吹き鳴らす。小鳥たちはウットリと聞き惚れ、コンマスと指揮者は親指立ててグッジョブ!(これは観客の間でも大好評で、ホルン吹きの彼は一躍有名人)

ところが3場の冒頭でまたしてもアクシデントが。とうに登場しているはずのミーメとアルベリヒがいない! これはヤバイという空気が流れ出したころ、あわてて二人がかけこんできて、危機一髪。(あとから聞いた話では、裏方でキューを出す係がスコアを追えなくなっていたらしい←それほどに難しい曲)。あとで歌手さんいわく「練習は裏切らない」! プロが言うと重みが全然違う。

ついにたどり着いた三幕。弦楽器にとっては最難関の火の輪くぐりがあるところ。
「火の輪くぐり」というのは、ヴォータンを打ち破った若き英雄ジークフリートが、未来の妻ブリュンヒルデを求めて岩山に登る最中、ローゲ様の作り出す炎の中を突き進むシーンのことで、そこは、ビオラ以上の弦楽器が、細かく音の変わるアルペジオを高速で弾き続け、一方でホルン群が勇ましくジークフリートのテーマを吹き鳴らすという、これまた全幕中最高にカッコいいシーンなのだ。
お察しの通り、弦楽器は死にます(恐らくはホルンもw)。1幕、2幕とガンガン弾き続けてきて、いい加減体力が尽きる頃にとどめの火の輪くぐり。しかも、本番では火の神ローゲが降臨したかのごとく、火の粉が舞う。もとい、赤い紙吹雪が舞う。譜面の上、肩の上、楽器の上に容赦なく降り注ぐ(後で演出担当の方がおっしゃっていましたが、プロでは絶対に許されない演出だそうです。楽器の中に紙吹雪が入ったりしたらもう大変!)。そこから先、意識は現世を離れ、どこか遠いとこにある感じ。さらに、1stバイオリンにとっては、この先に本当の最難関が待ち受けており……。

3場冒頭は、1stバイオリンのみの演奏が延々と続く。美しくはかない旋律は非常に難しく、緊張感の強いられるところで、これまで何度も何度もマエストロの特訓を受けてきた。それでも全員が揃ってきちんと弾けたことはほとんどなく、本番どうなることやら、と多くの団員が気にしていたはずだ。それが、さすがは祝祭管の花(?)、本番は最高の仕上がりでやってくれた。まあ、予定調和とも言うけれど。

ホッとしたらもう背中も肩も腕も痛くて、ブリュンヒルデが目覚めてしまったら(あと○ページ……頑張れ自分)とカウントダウンしていたのはココだけの話。ブリュンヒルデの歌は素敵だけど、長いしもう限界、と思いつつ、何度も立ち現れるジークフリート牧歌の旋律にしみじみ愛を感じて救われたり。本当に優しくて慈愛に満ちていて辛い時ほど心にしみる。

ということで、どうにか全幕終了した。この舞台を作り上げた人たち、プロもアマも関係なく皆さん素晴らしい。

打ち上げのビールは美味しかったです♪(最寄り駅まで車で送迎してくれたダンナ氏に感謝)。
楽屋で遭遇したアルベリヒ氏
ヴォータンになるとか言ってるけど
本筋とだいたい合ってる


※打ち上げ会場となった御園小町、お昼のお弁当を買い出しに行ったりもしたけど、お弁当の種類やお土産類が豊富でよいところ。今度伏見に行く機会があったら、ゆっくり寄ってみよう。