楽器を弾く予定もないからと、ブログタイトルを変えて半年くらいたったが、それが音楽の神様のお気に召さなかったようで、4月中旬に召喚状が来た。以前、設立時のガラコンサートで弾かせていただいた名古屋テアトロ管弦楽団で、ビオラの席に空きができたのでエキストラで来てくれないかとというお誘いを受けたのだ。
正直、最初はお断りするつもりだった。決まった日にち、しかも土日でかならず休みが取れるかというと、なかなか難しい職場と立場で、しかも本番までに練習に出られるのは数回。ところがお断りのメールを書こうとするとどうしても手が動かない。そういえば、最後にオーケストラで弾いてから一年半がたつ。そろそろ復帰しないとどんどん腕が落ちてゆくし、一緒に弾いた人たちの顔がちらついて仕方ない。落ち着いて考えてみれば、年度が変わってある程度仕事の見通しが立てられるようになったこの時期にビオラの席に空きが出ることが不思議な偶然だし、その時に団長が自分のことを思い出してくれたこと自体が有難く、これはやはり呼び出されたに違いないと観念した。
今度の演目は「トスカ」。プッチーニの代表作とも言われる有名どころのオペラで、演奏時間は約2時間と短めながら、とても劇的な内容で、美しいアリア満載の魅力的な作品だ。
本来なら昨年の7月に演奏される予定だったのが、例の新型ウイルスのおかげで一年延期になってしまった。昨年は見に行く気まんまんだったので延期になって残念だなあと思っていたが、結果としてまさか自分が舞台に乗ることになるとは思いもしなかった。
オケの練習に出席するのはもちろん、練習会場に行くのも一年半ぶり。世間のあちこちで常識となっている感染症対策がここでもがっつり行われていた。マスクは必須、手指のアルコール消毒、参加者全員の検温チェック、休憩時間には出入り口を開け放して換気。
さらにオーケストラならではの対策があって、弦楽器奏者は本来なら二人で一つの譜面台を使用するところ、密を避けるために一人でひとつの譜面台を使用するようになった。プルート制の解体ですよ。
これにはメリット・デメリット両方あって、メリットはまず、マイ譜面を使えるようになったこと。共有を前提としていないので、自分専用のメモや指番号を書き込んでOK。ただし、ボウイングの書き込みも自己責任で。それから隣に気兼ねしなくて良いので、譜面台との距離や高さが自分好みにできる。ただし、譜めくりもかならず自分でやらなくてはいけない。
デメリットとしては、隣を気にしなくなること。言い換えれば弓の使い方や微妙な間を合わせようという意識が(たぶん)ちょっとだけ薄れること。二人で一つの譜面台を使っていると距離が近くなるぶん、無意識にお互いの動作を合わせようとするもので、それがある種の緊張感と一体感をもたらし、結果的にはパートとしての音楽的なまとまりを作ることにつながってゆく。だから、一人一譜面台で演奏するときは意識してまわりの動きを目の端に入れておく必要が出てくるのかなと思う。
で、久しぶりにオーケストラの中で弾いた感触としては、伊達にワーグナーで苦労したわけじゃなかったなということ。オペラはシーンごとに拍子やテンポが変わるけれど、ちゃんとついていけたし、ト音記号も昔みたいに読むのに時間がかかるわけでもない。♭や♯の数がコロコロ変わってもあまり動揺せず、音楽の色合いが変わったな、ぐらいに思う。演奏の技術というのは、指や腕を早く正確に動かすだけでなく、それ以外にたくさんの要素があることをこの数年で身を持って学んだ。
さらに、楽器の演奏は老化防止にも大変効果があると言われているように、メンタル面ですごくいい影響があるのを実感した。Twitterにも書いたが、音楽の流れを読み決められたテンポに合わせて身体を操作することは精神の筋トレになるのではないかと思うのだ。
懐かしい人達とも再会できたことも良かった。今回はお呼ばれで(エキストラとして)参加することになったにもかかわらず、知り合いが多すぎてホームオケにいるような錯覚を起こすレベル。心の居場所があるっていいことですよ。
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