トスカ@名古屋テアトロ管の練習記第2回です。
呼ばれてとりあえず駆けつけたGW中の練習からおよそ一ヶ月。あれから少し勉強してボウイングのチェックもすませたものの、まだまだ準備しきれないまま2回目の練習に臨む。
今回は、いつもの小島先生ではなく、オペラ界でバリバリご活躍中の井村マエストロがトレーナーとして来てくださった。自分的には初めて振っていただく方なので練習前は不安も大きかったが、終わってみればこんなに面白くて音楽的に充実した時間は久しぶり。
関西を中心に活動されている方なので、現在のコンサートの状況――劇場は閉まるわ、中止が当たり前になるわの、なかなかハードな状況の最中にいらして、「この一ヶ月まったく仕事をしてません」て…。ネット世界ではよく見聞きする話ではあるが、リアルで聞くとつらい。
しかし……というか、だからこそ音楽愛にあふれた指導をしていただき、同時に新鮮な刺激を受けた。音符や休符の一つ一つに意味があるって、本当にその通りだと思うし(作家と作品の関係も同じことだから)、作曲家が音符に込めた意味を探り表現しようとすることが演奏者の役割のひとつだし楽しみでもあるということも思い出した。
ここ数年、居場所にしていたオケでは、ずっと同じ指揮者、定番のトレーナーだった。音楽的な一貫性を保つとか、長期的な視点でオケを育ててもらえるという意味では良いことなのだが、どうしても新鮮な出会いが少なくなる。学生オケや若い頃に所属していた社会人オケでは、毎年違う指揮者に本番を振っていただくことも多く、また、エキストラとしてよその楽団へお邪魔した折に新たに指揮者と出会うこともある。どのマエストロもそれぞれの流儀で音楽に対する強い思いや心情、曲の解釈があり、それが聞けるのもオケ活動をする上での醍醐味だった。今回は、この醍醐味を久しぶりに味わうことのできた練習だった。
井村マエストロ、関西弁でどんどん人を乗せるし、おもしろ小ネタを繰り出してくるし、笑っていると音楽上の本質的な指摘が飛んでくるし、振っているときは各楽器への目配せが的確すぎて怖いですよ。「そこ、ビオラがんばって」と、目立つ箇所にさしかかるたび、何度圧力を感じたことか。
また、このご時世だからこそ気になる問いがある。なぜ自分たちは貴重な時間とリソースを使って、時代も文化も違う異国の芸術を再現し、それを大勢の人に見てもらおうとするのだろう。単に「優れた芸術だから広める価値がある」だけでは人は動かないし、楽しいからといっても、他に手軽に楽しめる娯楽はいっぱいあるし、頭で考え始めるとキリがない。逆に直観的にはもうこれはやるべきだとしか言いようがなく、簡単には答えが書けそうにない。
ひとつ言えるのは、「魅力的な異世界を見てみよう/見せてあげよう」ではないかと思っている。自分たちがいる日常から少しずれた世界、ある意味安全な世界で自由に感情を遊ばせて心を解き放つこともできるし、人間の性というものを少し冷めた視点で見て安心することもできる。いつもと違うマエストロを迎えて音がリフレッシュした今回の練習と同じように、観客として来ていただく人たちにも、普段暮らしている世界とは違う世界を体験することで精神的にリフレッシュしてもらえたらいいなぁと思う。
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