管理人は原作世代ではなく「新ゼロ」世代だが、石ノ森スピリットはどちらにも変わらず流れていて、悲しきサイボーグたちが活躍する作品群にどれほど影響を受けたか、計り知れない。
解説に青島美幸さんのこんな言葉があった。
石ノ森先生の作品は、どの作品にも憎むべき悪役がいないんですよね。
(中略)
石ノ森先生はきっと人間が大好きなんだろうな――
立場とか環境に違いがあるだけで、善悪なんて、決められないものというのがポリシーなのね。
「善悪なんて決められない」私もいつのころからかそんな風に考えるようになっていた。悪役にも言い分があるし、正義の味方にも影の部分がある。知らないうちに石ノ森スピリットに影響されてたのだろう。
〈収録作品〉
北の巨人コナン、極北の幽霊、凍る秋、目と耳、血の精霊、見えない糸
この中の目玉は長編「極北の幽霊」。エネルギー問題が中核に据えられていて、設定のリアルさは洒落にならないほど(北極に核融合炉を設置することはかなり難しそうだけども)。マノーダ博士は石油に代わる新エネルギーとして核融合技術を独占し、そのことで世界を支配しようとしたが、核融合→バイオ燃料と読み替えれば、ねぇ(以下略)。
ギルモア博士の若き日の
あやまちエピソードがちらりと見えて、それだけでも充分美味しかったのだけど、ウエストサイド育ちのジェットが、ドルフィン号の中で、ジェット気流にひっかけて弾き語りを始めるところなんか、ひっくり返りそうになった。戦いに行くのにギターなんか持ち込むか、普通? なんてね。
ここで悪役として登場するマノーダ博士は、つくづく人間の悲哀を背負ったキャラだなぁと思う。幼い頃の事故、悪の組織に取り込まれたこと、ギルモアについていくチャンスがあったかもしれないのに、自分の信念に固執してそれを逃がしたこと。子どもに恵まれたのに、置き去りにしてしまったこと。才能に恵まれていたにもかかわらず、人生の曲がり角をことごとく間違えてしまったような感がある。最後は、死を選ぶという形で何もかも精算しようとするが、それすらも正しかったのか……。哀しいのう。
他に心にひびく短編がそろっていて、中でも「目と耳」が一番重かった。
003は望まないにもかかわらずレーダー代わりの目と耳を持ってしまったのだけども、ある時、その能力のおかげで一人の若者を救った。ところが彼もまた超人的な能力に目覚めてしまって苦しんでいたという皮肉が待っていた。苦しむ彼の心を最終的に救ったのは、003の優しさやほかのサイボーグたちの説得ではなく、ほかならぬ彼自身の勇気だったが、その結果が自死。ものすごくやりきれない。もし読者に救いの道が残っているとすれば、彼は死ぬことで救われたのではなく、勇気を持てたから死という救済が訪れたと考えることぐらいではないだろうか。
最近はこういう重さを持ったコミック/小説に出会わないなあ。多少は流行とか時代の流れとかもあるだろうけど。
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