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びおら弾きの微妙にズレた日々(再)

音楽・アート(たまにアニメ)に関わる由無し事を地層のように積み上げてきたブログです。

   

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お預けをくらったワンコの気持ち

中国で新種の病原体が発生したらしい、とニュースで知ったのが昨年末のこと。その時はまだまだ対岸の火事で、あっそうなんだ、という反応だった。なぜなら、以前に発生した新型インフルエンザとかSARS(肺炎を引き起こす「新型」コロナウイルス)は、確かに大騒ぎになったもののこの国ではほとんど流行しなかったからだ。今思えば、それがどれほどラッキーだったか身にしみる。



年が明けてから、日本でも新型コロナウイルスの感染者が出た。といっても1月の段階では中国と行き来のある人に限られていて、おそらく水際で連鎖は止まるだろうと(誰もが)思っていた。
確かにダイヤモンドプリンセス号内での感染は大変な騒ぎになったけれど、国内での感染とは切り離してカウントされている。
だから国の対策でもPCR検査(体内に新型コロナウイルスがいるかどうかを調べる検査)が受けられるのは感染地域へ渡航歴がある人に限られていた。

ただ、中国の武漢では感染爆発が起きて1月下旬に都市は封鎖され、感染力の強さが次第に問題視されはじめた。日本国内でも実際にじわじわと広がりを見せていたため、2月に入ると都市部で人の集まるイベントが自粛されるようになってきた。コンサートやライブ、特定の空間内で大勢の人を集めるようなイベントだ。

エアロゾル感染することがわかったため、マスクとアルコール消毒液はたちまち売り切れた。そしてなぜかトイレットペーパーやティッシュが店頭から姿を消し、いっときは紙おむつや生理用品までまで品薄になった。理由は原料を生産する中国の工場がストップしたからだというが、あとでそれはデマだとわかり、一ヶ月後くらいに在庫は復活した。

いったん自粛の空気が広がると、自粛しないイベント・箱への非難が一気に強まる。これが何よりめんどくさいし、ありふれた言葉を使えば、恐ろしい。

でも、2月の段階ではまだまだ美術館も開いていたし、核P-MODELのコンサートだって無問題で開催されていた。そして自分は3月の東京公演へ行く気まんまんだったのだ。

3月になった。国内の感染者数は減るどころか、新たな「クラスター」が発生しつづけ、著名人も何人か犠牲になった。コロナウイルスは世界中に進出し、中でもイタリアを大変気に入ったようで、北部地域を中心に感染爆発を起こした。

日本ではついに公共施設が閉鎖を初めた。クラシックのコンサートも次々にキャンセルへ。

中止になってしまったコンサートは仕方ない。あきらめがつけやすい。この時期で一番しんどかったのは、イベントやコンサートに行くことと感染のリスクの天秤を一人ひとりが自分の判断で図らなくてはいけなかったことだと思う。選択の自由があったといえば聞こえはいいけれど、自由があるということは、結果に対する責任もすべて自分にふりかかってくる。

感染しても自己責任。チケットをダメにしても自己責任。(もっとも、後者に関しては主催者がちゃんと返金対応をしてくれるのだが、その分主催者の負担が大きくなるし、機会損失を補填するすべは殆どない)

自分に関して言えば、核P-MODELの東京公演がまさにそれだ。半年も前から心の支えにしていた公演だし、娘に会いに行く絶好の口実でもあり、普通に考えれば行かない選択はない。でも間違ってウイルスを持ち帰ったりしたらどうなるだろう? 自分の楽しみのために強引に東京まで出張った結果、職場閉鎖の危機を招きかねない。下手すれば息子のバイトにも影響が出る。まっとうな社会人として取るべき選択肢はひとつしかなかった。

「新種のウイルス」の恐ろしさを実感したのはこの時だった。目に見えず巧妙に人の間に広がってゆくコロナウイルスは、たとえ身体の生命を奪うことはなくても、社会的生命を容易にカットする。

本番がキャンセルになって、再開の見通しがたたなければ、演奏者が練習する動機はすっかり弱くなってしまうだろう。それ以前に収入の道が絶たれれば、生活を続けることすら危うい。
生活がかかっていないとしても、練習という名のもとに定期的に集ってはガス抜きをするアマチュア奏者たちのエネルギーの行き場は? リモート合奏でどこまで演奏の醍醐味を感じることができる?

3月末に、首都圏を中心として緊急事態宣言が出された。最初の予定では約2週間限定のはずが、なかなか感染はおさまらず、GW開けまで延び、GWが始まるとさらに延長して5月いっぱいまで続くようだ。

その間、公共施設をはじめ、人の集まる施設は徹底的に閉鎖され、店舗も日常生活を維持するために必要な種類以外は閉めるよう要請される。娯楽施設は軒並みクローズ。花の名所も人混みをさけるため、花が切られるという始末。

お楽しみはすべてお預け、と言わんばかりの春だが、「お預け」が解除されたとき、世の人々はいったいどういう振る舞いを見せるのだろうか。実はその時が結構こわい。
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