ある年齢以上の人なら、70年代オイルショック時のトイレットペーパー騒動を覚えていると思う。店頭からたちまちトイレットペーパーが消えたというやつ。自分も親からよく聞かされた。そして大部分の人が「パニックに煽られた大衆は馬鹿なことをするなあ」ぐらいは思ったに違いない。
あれから50年近く経て、まさかリアルタイムで同じようなことを経験するとは。
「新型コロナ」が日本に上陸し始めて間もなくドラッグストアのマスクと消毒液や除菌スプレーの類が消えた。1月下旬のことだ。これについてはなんの不思議もない。まあ、当初はメーカーがすぐに増産体制に入って在庫は復活するだろうと軽い気持ちで見守っており、こんなに長期化するとは思わなかったのだが。
その後、2月に入り、あるデマが元でトイレットペーパーをはじめ、紙でできた衛生用品がことごとく姿を消した。
それは「中国の工場がコロナのせいで閉鎖しているから、そこで生産されている紙製品が流通しなくなるかもしれない」という主旨の発言だ。恐らくSNSで気軽につぶやかれたのだと思うが、未知のコロナウイルスに対する不安とあいまって、その影響は大きく、トイレットペーパーからティッシュペーパーから、紙おむつ、生理用品に至るまで、一気に店頭在庫がなくなった。
しばしば、紙難民の悲鳴や逆に英雄譚がツイッターのTLに流れてきた。
在庫がないのではない。供給スピードが購入スピードに追いつかないだけなのだ。毎朝のようにドラッグストアやスーパーに並ぶ人たちがいて買い占めているらしかった。(もちろんマスクも含めて)。それで勤め人が買い物をする時間帯にはもうない。小さい子を抱えて買い物に出るのが大変な人たちも買えない。生協など通販で注文しても品切れ続出。一部の通販や転売サイトでは異様な高値で取引される。
いやはや、闇市復活か? 人心の闇が表に出てきた感満載。朝イチで並べる人というのは、暇を持て余している(?)リタイア層が多く、そういった人たちはしばしば自分の家族や親戚に戦利品を配りたがる。また、未知のウイルスに対する不安が高じてパニックを起こし、自分の行動がコントロールできなくなって買わずにいられない人たちもいる。理由は何であれ、一般人にとっては迷惑なことに違いはない。
幸い、マスク以外の紙製品については、一ヶ月程度で普通に買えるようになったが、鬼のようにトイレットペーパーやティッシュを買い込んだ人たちの家はどうなっていることやら。一応、トイレットペーパーにも消費期限があるようなので、それまでに使い切るか親類縁者に配るかできるといいのだけど。
一方、マスクの品薄状態は面白い事態を引き起こした。あまりに市井の人々がマスクがないと騒ぐので、政府は転売屋によるマスクの高額販売を禁止するほか、マスクの配布を決めた。
1住所につきガーゼのマスクを2枚、だ。
洗って繰り返し使用できる、という意味では悪くない。ただし学校の給食当番が使うものと同じ仕様なので、市販の使い捨て不織布マスクよりは性能が落ちる。そして配布単位が住所。一人暮らしの部屋にも5人世帯の家にも、学生寮にも2枚ずつ。
これだけなら笑い話ですむ。事実はさらに斜め上をゆき、届いたマスクに異臭がする・カビが生えているなどの苦情が少なからずあったので、発送予定だったマスクは回収及び検品されることになり、市民の手に届くタイミングが遅くなった。非常事態宣言解除後に受け取った人の方が多いし、なんなら我が家はまだ届いていない。さらにマスクの発注先も最初のうちは全4社のうち1社が隠されていて怪しいと言われ続けた。
こんな風でマスクの品薄状態はいっこうに改善されないので、手作り布マスクが流行りだした。ネット上で作り方が公開され、一気に広まり、特に流行初期の3月中~下旬は材料となるガーゼやゴム紐が各地で売り切れ、なんと赤ちゃん用品のガーゼまで無くなる始末。GWを過ぎたあたりでようやく落ち着いてきた感じで、手芸用品店に行くとちゃんとマスクの製作キットが買えるようになっていた。
個人的には手作りマスクについては、効果の程はさておき、いろんなデザインが作れていいなあと思っている。特に暑くなってくると吸湿性のある布マスクのほうが快適。
タイトルに「兵站」と入れたが、足りなくなったのが衛生用品まわりだけでまだ良かった。食料までスーパーの棚から消える事態になったら本当に笑えないし、今後、コロナウイルスの影響が世界的に長期化するとわかっているので、何が品薄になってもおかしくない状況ではある。
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