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びおら弾きの微妙にズレた日々(再)

音楽・アート(たまにアニメ)に関わる由無し事を地層のように積み上げてきたブログです。

   

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新世界へようこそ

新型コロナウイルスが世界中を席巻してからすでに半年。社会のあり方を一変させたこの大流行のあと、どうやって感染症と付き合いながら継続可能な社会生活を営んでゆくか、という議論があちこちで見られるようになった。

流行後、いちはやく出た本がイタリア人、パウロ・ジョルダーノによる「コロナの時代の僕ら」。その後、日本でも何冊かコロナ関連本が出たと思うが、自分のアンテナに引っかかったのがコレ。





「BRAVE NEW WORLD」とは、約100年前に出たディストピア物の名作「素晴らしき新世界」の原作タイトルだ。それをあえてコロナ特集号につけたことで、特集の意図はわかるというもの。ちなみに特集名は「SFがプロトタイプする未来」。

この特集号の目玉はなんといっても7人の作家による短編競作。コロナ後の世界をSF的に描くとどうなるかという視点で書かれており、興味深いのは、どの作品にしてもロックダウンを必要とする規模の感染症の流行は今後何度もあるだろうと予測していること、もう一つは仮想現実とかVRとか言われる世界が拡充して「現実」に取って代わる可能性を視野に入れている、ということ。

お題は同じだが作者ごとの個性が出て面白かったので、1作ずつ感想をまとめてみた。


-LIFE'S FLOWING ALONG A WATERFALL
藤井太洋╱滝を流れゆく
 
舞台は奄美大島。滝のある公園へ仕事を兼ねてキャンプしにきた主人公は、たまたま東南アジアから来た中国系の家族と出会い、交流する。その夫婦にはコロナ禍を生き延びた世代ならではの身体的事情があった……。
 ※抗体スタンプのアイデアがそれっぽい。奄美大島が舞台なのは作者の出身地だからか?それはともかく舞台装置としてとても良い。

-RNA SURVIVOR
柞刈湯葉╱RNAサバイバー
 生物学者がコロナ流行にともなう渡航制限にひっかかり、時間つぶしにペルーの山奥まで「RNA遺伝子」を持つという生物を採取しに出かける話。
 ※この話のキモは、マスクのせいで人種がわからずにいたのが、はずした途端「国に帰れ」と通行人に生卵をぶつけられるシーン。これは未来譚というよりはすでに世界各地で起きている現象を扱っている。

-AI MEANS LOVE
上田岳弘╱愛について
 
ミニマリストな僕の彼女、愛が最終的に僕に望んだことは……。そして「愛」とは「AI」とは何者?

 ※度重なるロックダウンによる社会活動の停滞を避けるため、人類は仮想世界こと〈非物理世界〉と〈物理世界〉(いわゆる現実)をシームレスに行き来して暮らすようになった。ある意味現実以上に緻密に作られている〈被物理世界〉ができてしまえば、物理世界はもはや不要なのでは?という問いが、リアルさを増してくる。マトリックスの二番煎じと言えなくもないが。

-REVOLUTION, AND KEEP ON DANCING
樋口恭介╱踊ってばかりの国
 
三密回避のため踊りを禁止された郡上八幡が、自らのアイデンティティ=踊りを保持するため独立国家になったという相当アレな話。独立国家の要件をどうやって満たしたか、とか経済圏をどうやって作ったのか、などのエピソードが国家公務委員によるレポートという形でまことしやかに書かれている。と同時に「踊り」の本質に突っ込んでゆくさまが狂気。

 ※この人マトモじゃないわ(褒め言葉)、というのが第一印象。でもあり得ない話ではないと思わされるところが楽しい。いっそ愛知も独立すれば…いや名古屋帝国vsトヨタ連邦vs三河共和国の三つ巴の戦いになるな、これは。

-UNDERGROUND WIND, ROOFTOP'S SOIL
津久井五月╱地下に吹く風、屋上の土
 コロナ収束後も定期的に新種の感染症に襲われる世の中で、人びとはログ派とスコア派に分かれていた。ログ派だった主人公がスコア派の彼女にさそわれ、半引きこもり生活から新しい生き方に目覚めてゆく話。
 ※これが一番好きだし、ストーリーとしてよくまとまっているし、現実的な希望がある。

-THE FAIR CHAINS ver.1.51
吾奏 伸╱美しき鎖
 
ブロックチェーンの進化版「フェアチェーン」が量子コンピュータの力を借りて、また、ある学園の実験から生まれ世界的なモデルとなった経緯を昔語り風に語る話。

 ※人のすべての行いを「ネガ」と「ポジ」に振り分けた上でポイントをつける発想は、すでに中国あたりで実用化されているようだが、その欠点や問題点の解決策まで織り込んで未来の子どもたちに実装させているのがすごいなと。

-THE OVERCONNECTED GENERATION
石川善樹╱つながりすぎた人類
 
これは一言で言えばシンギュラリティの話。コロナ禍のあと、遠隔コミュニケーションが当たり前になった世代が、特殊な能力を持っていて「Soom」というアプリを使うことで、言葉の介在なしに親しくなれるという設定。ただしこれにはどんでん返しが待っている。

 ※星新一的なオチ。


短編の他にも各種インタビューや対談も充実している。
実は5月の段階で、某デジタル雑誌に世界的に有名な学者らのコロナ関連インタビューが載っており、読みかじったことがあった。決して悪くはなかったが、彼らの言葉はかなり抽象的でコロナ後の世界は依然として曖昧なままだし、見通せそうで見通せない。
今の状況が、ホントいきなりやってきたSF的未来(ややディストピアに傾いてる)なので、今後の世界を考えるならやはりSF的想像力で捉えるほうがむしろ具体的で現実的なのかとさえ思った。
注:今回の記事は実質的には本の紹介ですが、コロナ関連の話なのでそのカテゴリに入れます
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