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びおら弾きの微妙にズレた日々(再)

音楽・アート(たまにアニメ)に関わる由無し事を地層のように積み上げてきたブログです。

   

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おまえが深淵を覗くとき、深淵もまた……?

ということで、豊田市美術館で始まったばかりの奈良美智展" for better or worse "を見に行ってきた。

管理人が始めて奈良氏の絵とちゃんと出会ったのは、藤が丘近辺のある喫茶店で、少なくとも5年以上前のことだと思う(それ以前にどこかで見かけたことはあるはずだが、記憶が定かではない)。
まるで絵本の一場面を切り取ったような絵だと思い、いったいどんな物語の一部なのだろうと気になった記憶がある。きっとメルヘンに見せかけて相当にエグい話ではないかとか、妄想は膨らむ膨らむ。


当時はてっきり国内を中心に活動されているのかと思っていたが、後に国内どころかものすごくワールドワイドに評価されている作家だと知って驚いた。



空間を贅沢に使った展示は、奈良氏の作品の特徴をとても良く引き立てていたように感じた。
館内のほとんどの展示室を使い、100点に及ぶ作品が展示されている。製作年代はごくごく初期の80年代後半から始まり、現在まで網羅されていて、レコードで言えば、ボリュームたっぷりの「グレイテスト・ヒッツ盤」みたいな感じ。なのに、あれだけ見てもまだ物足りずに、帰りに『小さな星通信』を買ってしまった。
シンプルな少女像なのに、色がとんでもなく奥深くて、思わず魅入ってしまうのだ。

まずは、1階の展示室内で、入れ子構造的に、初期のドローイングから現在のものまでヒストリカルに作品を並べた小さな展示室が面白い。段ボールの裏にさらさらっと描いたように見える絵でさえ、作品として成立する楽しさ、面白さ。全体的に親密な雰囲気が漂う展示室。

また、2階の高さのある展示室を生かした《Voyage of the Moon》はとても良い空間だった。あの大きな展示空間の壁をすべて紺色にしてあり、ふだんなら3階から見下ろすことのできる小窓が星の形になっていて、完全に月の支配する夜/夢の世界となっていた。

そして3階の最初の小部屋! 水色の壁に囲まれた部屋の中央には1作品のみ。<Fountain of Life>が鎮座していた。これはもう完璧としか思えない造形で鳥肌がたつ。犬の被り物をしている真っ白な子どもの頭部がいくつか積み重なって、ピラミッド状になっており、彼らの涙が水源となって泉を作っている。その表情の清らかなこと。まるで、先日看取ったツバメのヒナのような表情なのだ。彼らはまさに生命の源にいる。そこから流れ出る涙/水は、(たとえ水道水であっても)生命のしずくにしか見えない。

そこから先の展示室にある作品は、傷ついた少女がじっとこちらを見据えているものが増えてゆく。彼女たちの訴えは、わかりそうでわからない。というか、簡単にわかったつもりになってはいけない何かをとても深い淵から訴えかけてくる。
” wenn du lange in einen Abgrund blickst, blickt der Abgrund auch in dich hinein."
「おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ」

                 フリードリヒ・ニーチェ 『善悪の彼岸』より

これは、あまりに有名すぎる一節でなんの新鮮味もないけれど、奈良氏の作品を見ているとこの言葉を思い出さざるを得ない。
でも、カンバスの中の少女たちが見ているのは、鑑賞者などではなく、もっと遠く、この世界を一皮むいた奥にある、常人には見ることのできない世界なのだろう。

そのことに気づいたのは、2階展示室にある《FROM THE BOMB SHELTER》を見た時だった。タイトル通り、核シェルターからひょこっと顔を出した少女の絵だ。背景には何もない。でも、彼女の瞳にはしかるべき風景が映っているはずなのだ。思わず後ろを振り向くが、そこにあるのは、展示室の風景。彼女が見ているであろう景色は次元の狭間に消えてしまったかのようだ。
同時にようやく気がついた。奈良作品の少女たちは、彼女たちにしか見えない何かを視ている。鑑賞者はその反照を見ているだけなのだ。彼女たちの瞳に映し出された世界の名残りを。

だとしたら、たとえば《Missing in Action ―Girl meets Boy― 》の少女の燃えるような瞳に映し出されているのは、どれほど美しい景色なのか。《Sprout the Ambassador 2007》の少女の目を傷つけた風景は何なのか? それでもなお視ることをやめないのはなぜ?

答えは風の中に……じゃなかった、やはり深淵をのぞくことでしか見えてこないのではないだろうか。それだけの眼力は、まだ自分にはない。
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