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びおら弾きの微妙にズレた日々(再)

音楽・アート(たまにアニメ)に関わる由無し事を地層のように積み上げてきたブログです。

   

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どうすれば「美」は見えますか

リニューアルを終えたばかりの豊田市美術館探訪記その2


美術館に入るとすぐ、吹き抜けの2階へ続く階段が目に入る。その階段を上った先にあるのが展示室1で、「ソフィ・カル――最後のとき/最初のとき」の最初の作品、〈盲目の人々〉が展示されているところ。




これは、生まれつき目の見えない人に「美しいものはなにか」とたずね、その回答と回答を元にイメージしたものを写真で撮って展示した作品。ここにインタビューに答えてくれた人のポートレイト写真も加わり、3点セットで一人分の展示となる。
言葉、言葉からイメージされた画像、言葉を発した人の肖像。この3つが1セット。
全部で23名分の「美」が並んだ。ひとりとして同じものはない。自然の緑だったり、家族の姿だったり、街の姿だったり。正直なところ「見たことがないものが『美しい』ってどういうこと?」と思う。でも、回答者それぞれの言葉を読むうち、「美」を形作るのは視覚ではないとわかる。実際、目の見えない人々は、視覚を補うためにそれ以外の感覚――聴覚や触覚や嗅覚がとても鋭敏になる。ならば視覚以外の感覚をフル稼働させて「美」を知るのかというと、それも少し違う。「美」は言葉によって規定されるものだった。他者の口から発せられる「〜は美しい」という言葉をもとに、頭の中でそれぞれの「美」がイメージされ、ふくらんでゆくのだ。写真家が言葉を頼りに回答者が「美しい」と思っているものを写真に撮るように。
言葉が「美」を規定するのは、目が見える人間でも同じことなのではないか。バラの花を見て「きれい」「かわいい」と感じるのは、かつてだれかが「バラは美しい」と言っていたのを覚えているからそういうイメージが刷り込まれたのではないか。もちろん、均整のとれた形は美しく見えるとか、暗い部屋に明るい色の花があればそれだけで気分が和む、あるいは感じの良い香りがする、など、言葉以外の要素も影響はしているだろうけれど、何かを見て「コレいい感じ!」と心が動いた時の様子を「美しい」と形容するのだと教えてくれた他者がいなければ、「美しいものとは?」という問いに答えることはできない。
また、目の見えない人々は、イメージを視覚にしばられることがないためか、「美しいものとは?」という問いに対してとても漠然としたイメージを返してきたり、あるいは手で触れられる具体的な何かを答えたりする。それも大変興味深かった。
ちなみに、展示作品のトップは海で始まり、ラストは無で終わる。どういうことかというと、最初の人にとって美しいもの、それは海であり、最後の人にとって美しいものは(自分にとっては)存在しないというのだ。まるで人生の誕生から死までを辿っているようで、この展示順も大変興味深かった。

次の作品は〈最後に見たもの〉。これは中途失明した人たちが最後に見たと記憶しているものを語ってもらい、それを写真で表現した作品。これも言葉、言葉を表現した写真、本人のポートレイト、の3点セットとなっている。事故や病気で失明した人ばかりのせいか、恐ろしい事故の記憶や切ない記憶が多くて、トラウマを写真にして並べたような感じが痛かった。美について語っていた〈盲目の人々〉とは対照的。

3つ目の作品は〈海を見る〉。これはビデオ作品で、まだ一度も海を見たことのない人々を浜辺に連れ出し、生まれて初めて実際に海を見た時の表情を撮影したもの。
8本の映像が同時に四方の壁に投影される(ただし、最後の「海を見る:子供たち」だけは、他作品と同時に見ることはできないようになっている)。
最初は海を見る後ろ姿で始まり、充分海を堪能したあと、おもむろにカメラの方へ振り返る。微笑む人もあれば、考え深げにじっとカメラを見つめる人もいるし、感極まって涙を流す人もいる。部屋いっぱいに波の音が響いているせいで、鑑賞者もまた海辺に立っているような気になり、初めて海を見た人たちに「どうでしたか? それは良かったですねぇ」と声を掛けたくなるような、でもその声は決して届かないという、親密さと遠さが同居する空間。
そこを抜けだすと、最後の展示室があり、初めて海を見た子供たちの映像がふっと現れ出た。彼らは深刻さも感動も飛び越えて、ただ嬉しそうに波と戯れる。公園で噴水やせせらぎを見かければ嬉々として足を突っ込みたがるどこぞの子どもたちと同じだ。思わず吹いた。そうしたら、監視員の女性と目が合って、非常に間の悪い思いをした。


↑は、美術館でもらってきた解説パンフレットや展覧会のチラシなど。
左端の海を見る女性は〈海を見る〉のひとコマ。写真には写っていないが、展示室入り口でもらった、ソフィ・カル展のパンフの解説は読み応えがあってとても良かった。
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