三月の終わりに、母を連れて愛知県陶磁美術館まで出かけ、ヘレンド展を見てきた。ヨーロッパには、マイセン、ウエッジウッド、セーブルなど、王家御用達の名窯が各地にあるが、ハンガリーはブダペスト郊外にあるヘレンド窯もそのひとつ。
オーストリア=ハンガリー帝国のエリザベート皇妃に愛されたというこの窯は、繊細で豪奢な絵付けと見事な透かし模様が特徴になっているということで、目の保養ができると楽しみにしていた。
陶磁美術館は、平日のせいかお客の入りはぼちぼち。好きな作品を好きなだけ眺めていられる。しかし、のんびりしすぎると、あっという間に閉館時間の4時半(早っ)が迫ってくるので要注意。
ヘレンド窯の絵付けは、中国や日本など、東洋の影響が大きく、中にはほとんどコピーといえる図柄も見受けられる。というのも、創業者は東洋の陶磁器を完コピすることにエネルギーを傾けたからだ。模倣から始まる技術の鍛錬。結果的に、ヘレンド窯の絵付けと透かしの技法は大変高度になり、さらには西洋と東洋が融合したエキゾチックな意匠が生まれ、それがヨーロッパの王侯貴族に大いに受けた。
ところが代が変わり、第一次世界大戦前くらいから、ヘレンド窯の人気は低迷を始める。戦時下にあっては、装飾品より実用品、というか王侯貴族といえど、陶磁器にうつつを抜かしている場合ではなかったのだろう。その後、子孫たちが窯を株式会社化するなど奮闘し、主力のテーブルウェアのデザインを東洋趣味から現代風に変えたり、あるいはフィギュア(ノベルティ作品みたいな人形や像など)を製作・販売することによって息を吹き返した。
実は、ヘレンド窯の作品でいちばん気に入ったのは現代風のデザインによる食器セットだ。ほどよくお洒落で、一般家庭でも使えそう。純白の陶器ウエアで一世を風靡したフランスのリモージュ窯などは、現代のデザインになると有名デザイナーとコラボしているにもかかわらず、やり過ぎ感があってイマイチに見えたりするのだが、ヘレンド窯のものは、けれん味がなく素直に「あ、これいいな」と思える食器なのだ。むしろ、東洋デザインのコピーに躍起になっていた19世紀のテーブルウエアのほうは、言葉は悪いが東洋の劣化コピーに見えてしまって残念だった。確かに、精巧な技術によって作られていることはわかるか、こちとら限りなく美しいリモージュのテーブルウェアや、超絶技巧の限りを尽くした宮川香山の作品などでしっかり目を肥やしてしまっている。コピーはあくまでもコピーにしか見えないのだ。
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