本日は、愛知県美術館で開催中の「ロイヤル・アカデミー展」の感想を少々。
1768年、ロンドンに設立された「ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ」は設立当初から現在に至るまで、英国美術界の最高権威の立場を守ってきた。(ちなみにベートーベンの生年が1770。音楽で言えば古典派真っ盛りの時代に設立されている)
アカデミーの正会員になることは、芸術家として大変な名誉だった。正会員と認めてもらうために提出する「ディプロマ・ワーク」、美術を学ぶ学生の教育用として、ヨーロッパ各地から集められたマスターピース、これらがアカデミーの主な収蔵作品である。18~9世紀の英国美術を代表する画家の作品を展示したのが、今回の「ロイヤル・アカデミー展」。
展示されていたのは、高度な描写力(=本物そっくりに描く力)を誇り、どこに出しても恥ずかしくないような折り目正しい作品がほとんど。肖像画も多いが、自然の雄大さ、美しさを描き出す風景画が多く、一方でギリシャ神話に題材をとった作品や宗教画が少なかった。これはもしかするとイギリスの宗教が国教会だったせいかも。
正直なところ、全体的に華々しさに欠けるきらいがあって、どこから見ても美しく端正な絵ではあるが、どうも色気が足りない。昔話題になった「イマイチ萌えない美少女」を思い出させる。
では、何に一番興味をそそられかというと、教育用資料。今で言う美大・芸大の役割を果たしたアカデミーには、模写のための古典的名作(マスターピース)、解剖学の本、色彩理論の本といった、貴重な資料が多数所蔵され、また、学生がライフ・クラス(石膏ではなく人のモデルを使ったデッサンをする授業)に出る許可をもらうために提出した習作もいくつか残されている。中には11歳でアカデミーに入学したという早熟の天才画家の習作も残されていて、多少の幼さは残るスケッチだったけれども、見事な技量に「へぇ~」と感嘆して眺めるほかはなかった。
そして、最も面白く見たのが「1875年のロイヤル・アカデミー展出品審査会」という作品。持ち込まれた大量の作品に対して入選の可否を判定するアカデミー会員たち、判定をキャンバスの裏側に書き込むため、チョークを持って待機する人、奥の方で作品を展示したり整理するバイト(?)の人たちなどが克明に描かれ、芸術作品というよりは、当時の様子を知る資料としてたいへん優れたものだ。眺めるほどに、審査にまつわるさまざまなドラマが見え隠れする。言い換えれば、とても人間くさく、だからこそ面白味がうまれるのだな。
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