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びおら弾きの微妙にズレた日々(再)

音楽・アート(たまにアニメ)に関わる由無し事を地層のように積み上げてきたブログです。

   

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世界はどこに向かって開いているのか

約10ヶ月にわたる休館・改修作業を経て、2019年6月1日にリニューアルオープンした豊田市美術館。リニューアル後最初の企画展は、収蔵作品をどーんと展示した「世界を開くのは誰だ?」および豊田市の長興寺が所蔵する「重要文化財 紙本著色織田信長像」の特別公開。

そして1日&2日は入場無料という太っ腹対応をしてくれた。素晴らしい。しかし、今年6月までの年間パスポートを持っているので、ゆったりできる平日に久しぶりの訪問をしてきた。前回の観覧からおよそ1年たっているのだが、「久しぶり」という感じはまったくせず、いつもの場所に帰ってきた! という感じですーっと館内に入ってゆけた。




「世界を開くのは誰だ?」とはなかなか魅力的ななタイトルだ。問いかける形を使うことで、「あなた自身の手で新しく世界を切り開いてください」という願いが見えてくるからだ。
自分自身、世界と渡り合うための新たな視点が見つかるかも、という淡い期待を抱いて展示室に足を踏み入れることができた。その時の心持ちはこれから遠足に出発する小学生のよう。

最初に目に入るのが、塩田千春《不在との対話》。抜け殻のような純白のドレスと裾から広がる血の色の糸。いきなり「人が存在するってどういうこと?」と問いかけられたようで、すうっと心が持って行かれるような作品だった。(願わくば、もう少し広い空間に展示できればさらにじっくり味わえた気がする)
歩を進めると、見慣れたお気に入りの絵が次々と現れる。エゴン・シーレ《カール・グリュンヴァルトの肖像》、ルネ・マグリット《無謀な企て》、フランシス・ベーコン《スフィンクス》……

全部で4つの章立てで構成されており、1階の展示室は
第1章「身体」を開く
第2章「日常」を開く

2階、3階と、階段を上がるにつれて抽象度も上がる。
第3章「歴史・記憶・社会」を開く
第4章「まだ見ぬ世界」を開く

2階の巨大な展示室には、フィボナッチ数列をカタツムリの殻に読み取る巨大な作品、3階に上れば(過去の愛トリですっかりおなじみになった)動画作品、そして純粋に色と形をテーマにした作品から絵画における空間概念とは? と問いかけてくる作品まで。

イヴ・クラインの《モノクロームIKB65》は有名なインターナショナル・クライン・ブルー(IKB)を全面に塗ったカンバスの上にアクリル板がかぶせてあり、作品の前に立つと、自分の姿がアクリル板に映り、IKBの上に自分の姿が浮かんで見える。
ルーチョ・フォンタナ《空間概念》は、キャンバスそのものを傷つけることで、本来なら絵の土台として2次元的に機能するキャンバスを物質として捉えており、初めて目にしたとき(20年くらい前だったかも)「へぇぇ、面白いことを考える人だ」と驚いたが、今となっては現代美術の中の古典的作品にも思える。
佐藤克久の作品群は、色と形が繊細な音楽を奏でているようで、楽しく眺めた。個人的には主義や思想が色濃くでた作品よりも、純粋に色や形の力を追求する作品の方が好み。というか肌に合う。

一番最後の展示室に入ると、照明を落とした中に、スポットライトを当てられポツンとたたずむ作品がひとつ。ライアン・ガンダー《おかあさんに心配しないでといって(6)》だ。大理石を盛り上がった毛布の形に仕立てた作品。あたかも子供が中に隠れているようで、ほのぼのとする。石で作られているのに布のひただの質感がリアルで、惚れ惚れと眺めているうちに、ふと既視感を覚えた。それから怒涛のように連想がわいてきた。

何を連想したかというと、ピエタだ。聖母マリアがイエスの死を嘆き悲しむ様を大理石で表現したミケランジェロの名作。息絶えた我が子を膝に抱くマリアのスカートのひだがありありと思い出され、それからイエスが三日後に復活して弟子たちやマリアのもとに姿を見せたこと、同時に「おかあさんに心配しないでといって」というタイトルが重なった。
もちろん、作者がそういう意図で作品を作ったのかどうかはまったくわからない。ただ、自分の中で勝手にそういう連想が働いただけだが、少しだけ幸せな気持ちになって最後の展示室を出た。ジョン・レノンの「Let it be」の1節 "For though they may be parted, There is still a chance that they will see" を思い出しながら。

果たして新たに世界は開かれたかどうか、それはあまり実感がない。ただ、作家たちがどのように世界に風穴を開けようとしたのか、そこを考えながら作品を見る機会となった。

仕上げはミュージアムショップでのお買い物。過去の展覧会の図録が出てると聞いていたのが、気になる図録は色々あった。ただ、実際に手に取ると、解説は読み応えがあるにしても、印刷の絵となると、どうしても生の鑑賞体験の追憶でしかないなあと感じてしまって、値段に関係なく買うのをためらってしまう。さんざん迷った挙げ句、手元に置くことにしたのは「観る人がいなければアートは存在しない!」(美術館とガイドボランティア10周年記念誌)、2006年に開催された「GARDENS」展の図録、以上の2点。帰宅してからゆっくり目を通してみたが、どちらも後悔なし。

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