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びおら弾きの微妙にズレた日々(再)

音楽・アート(たまにアニメ)に関わる由無し事を地層のように積み上げてきたブログです。

   

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実存の森に迷い込んだようなジャコメッティ展

今年の紅葉はなかなか見事だった。フェイスブックなどを見ても、各地の美しい紅葉の写真がいっぱい。負けてはいられないと出かけた先は、豊田市美術館。興味深い企画展が多いだけでなく、建物そのものが美しいところで、季節ごと、時間帯ごとにさまざまな表情を見せてくれる。秋の紅葉も素晴らしい。


紅葉シーズン中の11月に開かれていたのがジャコメッティ展。現代彫刻に大きな足跡を残したアーティストだというので、興味がわいて見に行ってきた。



(同時開催は、「宇宙の彼方へ」高橋節朗展)


女性の立像が多いのだが、いずれも細く引き延ばされた特徴的なフォルムのため、並べて展示されるとまるで森の中に迷い込んだような心持ちになる。すぐそばで対峙してみると、とても荘厳気持ちになるのだが――

しかし、同時に湧き上がってくるのが「どうしてそうなった?」
20世紀初頭に活動していたジャコメッティは、キュビスムやプリミティブな彫刻の影響を受けつつ、独自のスタイルを築き上げたと言われているが、モットーは「見えるものを見えるままに」。これは写真のような絵を描くのとは違う。例えば、遠くにいる人物は実物より小さく見えるが、それを小さく見える通りに作る、ということらしい。
これが絵であれば、パリの街やカフェの一瞬をいかに素早く紙の上に写し取るか、が至上命題になるようで、残されたデッサンは、流れるような線でクロッキーのようにささっとその場を写し取っている。なにしろ街もカフェも刻一刻と姿を変えてゆくのだから。あくまでも目に見える一瞬へのこだわりようがすごいし、たとえ完結していない線ばかりであっても、街のその一瞬が持っているエネルギーというか活気は確かに伝わってくる。
もちろん、移りゆく一瞬を確保し「見えるものを見えるままに」に記録するのであれば、写真を使うのが一番早いし楽だ。なのに写真に手を出さなかったのもなかなか興味深い。もしかするとジャコメッテイにとって「見えるもの」というのは、目に映るものだけではなく、陳腐な言い回しになるが「心の目」に映ったものまで含むのかもしれない。

ジャコメッティはいっとき、極端に小さな立像(マッチ箱に入るサイズ!)ばかりを作るようになったりする。試行錯誤ののちに、細長く屹立する人物像にたどりついたという。それらの像に宿っているのは「ここに人が存在してます」という純粋な主張。それだけ。モデルの余分な背景は潔いまでにそぎ落とされている。

でもどうしてそうなった?

ジャコメッティは、屹立する女性像とは別に弟や親しい友人をモデルとした男性の頭部も数多く製作しているが、こちらはどっしりとした存在感があり、モデルの人柄まで伝わってきそうなのに。

また、その作風からいかにも作者は精神を病んでいそうだが、そういうこともなく、ジャコメッティは家族と故郷を大切にし、親しい友人をとても大切にし、何より製作が好きだった。残されている写真で見る限りではイケオジっぽいし(要するに歪みや偏りのない良いお顔)、芸術家としては申し分ない境遇にいたように思える。なのに生み出される作品はキレッキレ。それとも「だから」キレッキレになれたのだろうか。

今ひとつ、つかみどころがないなあと思いつつ、最後の部屋に入ると、なんとイヌとネコがお迎えしてくれた。基本的に人間の像しか製作しなかったジャコメッティが残した、貴重な動物像だ。もちろん細い。



このイヌを見たとたん、思わず「(押井守の)イノセンスだ!」と心の中で叫んだのは脇に置くとして、負け犬っぽくうなだれて歩く様子がもう、これはイヌのイデアじゃないかというぐらいイヌの本質を表しているように見えて、とても気に入った。
実はこの作品には作者のコメントがあり、これは特定のイヌをモデルにしたのではなく、うつむきながら街をふらふら歩く作者自身の姿がイヌっぽく思えたので、それを作品にしたのだという。ああなるほど、と腑に落ちた。これは間違いなく作者の心の目に映ったイヌだ。そして私たち鑑賞者の心の中にもいるイヌ。

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