とうとう終わりが見えてきたあいちトリエンナーレ、今回は名古屋市美術館編です。
(残念ながら岡崎は行けそうにないなぁ)
巨大な建物の中にいくつもの現代アートを格納しているのが愛知県美術館、町全体をアート化しているのが長者町だとするなら、名古屋市美術館は美術館そのものをアート作品にしてしまった。
よく高校の文化祭で、教室がお化け屋敷になったり、映画館になったりテーマパークに化けたりするが、あれと同じことを、つまり見慣れた空間を別のものに作り変えてしまう作業を、大人が本気を出してアーティスティックに仕掛けた感じ。
まず、入り口が違う。チケットを持って意気揚々といつもの正面玄関にまわると、愛トリスタッフの人から「トリエンナーレ作品はこちららからどうぞ」と地図を手渡される。顔を上げれば「トリエンナーレ順路」と矢印看板もある。それをたどってゆくと、建物の反対側に出て、急ごしらえのポーチにたどり着き、ふだんなら裏口として使われているドアが入り口になっていることに気がつく。
これまた仮ごしらえの受付を過ぎると、いきなり暗い部屋に通される。部屋の真ん中にはチョークで満杯の大きな箱が。チョークの部屋の左右にはさらに薄暗い部屋がひとつずつあって、そこには何も書かれていない黒板がいくつも展示されている。この黒板、実は東北の震災に遭った地域から譲ってもらったものだという。由来をのぞけば、まったくなんの変哲もない、どこの学校にもありそうな黒板だ。
それらの黒板に、ある瞬間、いっせいに字が浮かぶ。手書きの文字で、すべて違う筆跡で。
アルフレッド・ジャー
「生ましめんかな(栗原貞子と石巻市の子供たちに捧ぐ)」
プロジェクターで投影されているとわかっていていもそれらの文字は妙に生々しい。まるで目に見えない誰かがチョークを使って書いたかのように。
次の展示へと進む。しかし裏口から入るので、自分が美術館の中のどのあたりにいるのかさっぱりわからない。中の仕切りもかなり手を加えてあって、いちばん驚いたのは、あるはずのない場所に2階へ続く階段ができていたことだ。まるで違う建物に来たかのよう。知っているはずの場所なのに見知らぬ空間。不思議な気分だった。
青木淳 杉戸洋(スパイダース)「赤と青の線」
狐につままれた気分で、矢印に導かれるまま2階の非常階段から外へ出る。 すると、今度はタイルの上に人が大の字で横たわっている。これはドリフの銅像シリーズか? 全身ペンキを塗った人が作品のフリをしているのか? と思ったが、残念ながら本物の銅像だった。
その次が鳥の巣みたいな中空に浮かぶ部屋。なんというか、少年の夢を具現化したようなもので、予約すれば実際に中に入り、居心地を試すことができる。自分的には見てるだけで充分だけどね。
藤森照信「空飛ぶ泥舟」
美術館の東側をぐるりと回ると、今度は地下階に通じる外階段をたどるように指示される。地下のテラスにも作品展示中。その横を通りぬけ、再び美術館内へ。矢印に従い、階段を登って1階に上がると目の前には通常の展示室入り口が見える。しかし展示室への扉は封鎖され、その前に最後の作品が鎮座する。それがブーンスィ・タントロンシンのアニメ作品「スーパー・バーバラ世界を救う」だったりするわけで。
これは完全にやられました。
知ってるのに知らない空間を延々と進まされ、キワキワのインスタレーションや立体作品を鑑賞し、頭のたががいい具合に緩んできて、自分はいったい何処へ向かっているのだろうと心地良い先行き不透明感に酔っていたら、行き着いた先がスーパー・バーバラですよ? 人の世の不条理を、一体のダッチワイフに背負わせて淡々と描く脱力系アニメですよ? 一気に目が醒めた。
ちなみに、バーバラは各会場にひとりずつ配置されている。言い換えれば、ひとつの会場につきひとつのエピソードが見られるようになっている(ただし納屋橋会場では全編を見られるようだ)。全エピソード制覇を目指して愛トリ会場をめぐるのもまた楽しい。
名古屋市美術館を見知らぬ展示空間へと変貌させてしまった〈スパイダース〉の講演会及び改造内容の詳細説明はこちらへ→
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