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びおら弾きの微妙にズレた日々(再)

音楽・アート(たまにアニメ)に関わる由無し事を地層のように積み上げてきたブログです。

   

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深い森の上に輝くドーナツ化した月(マックス・エルンスト展)

月が変わってしばらくぶりにオフ日ができたので、愛知県美術館へマックス・エルンスト展を見に行ってきた。本当は温泉にゆっくり浸かってマッサージでも受けたいぐらい疲れがたまっていたのだけど、でも、頑張って見に行って良かった。

この展覧会のサブタイトルは「フィギュア✕スケープ」。作品の構成要素をフィギュア(ヒトや動物の形をとった何か)とスケープ(背景)に分けて考察しようという試み。しかし分離できるうちはまだまだ序の口。エルンストの絵はフィギュアがスケープの中に溶け込み、スケープの中からフィギュアがたち現れ、謎解き絵のようになってゆく。

これまでマックス・エルンストといえば「ポーランドの騎士」ぐらいしか知らなくて、シャガールの親戚みたいな絵柄だなぁと思っていた程度。それがこの展覧会で詳しい解説とともにみっちり眺めて、実はパウル・クレーに近い線を描く人? と思い、またさまざまな技法を試みると同時に一貫したモチーフを描き続ける画家だと知った。

エルンストがこだわり続けたモチーフはいくつかあって、ひとつは鳥。それからリング状(金環食の状態)の太陽または月と、威圧感を持つ深い森。
ほとんどの作品に鳥や鳥を思わせるモチーフが登場するだけでなく、彼は頭部が鳥で胴体が人間という「ロプロプ」という名の生物を生み出し、カゴの中の鳥、というテーマで何枚も作品を作っている。どうしてそうなったかは謎だが、エルンストにとって鳥とは魂の象徴であるらしい。(鳥といえば、かの押井監督も重要なモチーフとしてしばしばアニメ作品の中で鳥を使っている。古代のキリスト教世界では、魚が神や「言葉」を象徴しているのだが、鳥にもそのような謂れはあるのだろうか…)
森はやはり無意識の世界を象徴しているのだろうなぁ。底知れない恐ろしさを秘めると同時に魅惑的でもある存在として。
そしてリング! 金環食の太陽と捉えればそれだけで十分意味を持つものだけど、どうしてもワーグナーのリング(ニーベルンゲンの指輪)とかトールキンのリング(指輪物語)を連想してしまう。どちらのリングも絶大な力を持つがゆえに数々の悲劇を招き、結局は封印されてしまうもの。封印されたリングは、人類の深層意識の海でたゆたっており、エルンストのような特別な芸術家のみが見ることを許されるのではないだろうか。という妄想を働かせてみる。


エルンストが最も多用した技法が、フロッタージュ(いわゆる「こすり出し」)とコラージュ。
フロッタージュをする→偶然面白い模様が採れる→インスピレーションを得る→具体的な何かに見立てて造形する。
という流れで作られた作品が多く、フロッタージュ模様の加工やコラージュの加工は神がかっていて、繋ぎ目の不自然さがまったくない。
また、偶然あらわれた模様を何かに「見立てる」という行為へのこだわりがハンパない。何気ない線が鳥の姿になったり、人の顔になったり。鑑賞者もまた不思議な世界に引きずり込まれる。
エルンストはこの「見立てる」作業=無意識の発露と捉えていたようだ。それが極限までおし進められたのが記号のような架空の象形文字群。勝手な想像だが、さまざまな模様を何物かに見立てる行為を続けた結果、ついにはアルファベットがゲシュタルト崩壊を始め、文字は文字でなくなり、新しいカタチとして新しい意味を与えられたのではなかろうか。

しかし「見立てる」作業は芸術家の特権ではなく、太古の昔、ほら穴で暮らしていた人類が岩の壁に動物の姿を描き残したとき、つまりそれまで猿の一種にすぎなかった人類の祖先が、現在の人類へと進化の舵を切った時からそれは始まっている。
だから、エルンストの絵を見て、何か心がざわざわするなぁと感じたら、それは人間としての本能が疼いている証拠なのだ、と思う。


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