かつて、名古屋が陶磁器の一大生産地だったことはご存知だろうか?
明治の初期、日本から輸出された陶磁器はヨーロッパで大人気で、できるだけ外貨を稼ぎたかった明治政府は陶磁器の開発に力を入れたのだが、すると陶磁器産業は活気づくのなんのって、各地の職人や工房が技術を競い合ってヨーロッパの万国博覧会にこぞって出品し、高い評価を得た。技法の粋を凝らした数々の作品は「いったいどうすればこんなブツが生まれるんだ?」という恐ろしいほどの美しさと緻密さを持っている。
宮川香山の作品。
高浮彫で鳥と花が表現されているが、もはや彫刻作品
もともと瀬戸や美濃は焼き物の産地だったのだが、その瀬戸や美濃の焼き物は名古屋に集められ、名古屋港から輸出された(今でこそ自動車が大量に輸出されているが、もともとは陶磁器を輸出するために作られた港だという)。さらに名古屋に絵付師が集まり、産地から集まってきた無地の陶磁器に豪華な絵付けをして海外に送り出すことも始まり、これが「名古屋絵付」として有名になった。
しかし、輸出された陶磁器類は海外へ渡ったきり日本にはほとんど残っておらず、結果、あまり注目されたり研究されたりすることもなかった。これを地道に趣味で集めた事業家がおり、とうとう美術館を開くまでのレベルに。そうして誕生したのが横山美術館。オーナーはプロトコーポレーションの設立者、横山氏。コレクションのメインは「里帰り品」と言われる明治初期の海外向け陶磁器で、宮川香山作品や墨田焼、オールドノリタケなどが含まれる。
国道19号沿いに立つ美術館は一見テナントビルのようだけども、中に入ると、展示室の明かりが次々と灯り(人感センサー付きなので)迫力ある陶磁器の数々に圧倒される。階段や踊り場の床のクッションフロアには、繊細な花の型押し模様。隅々まで行き届いてます。
1階~3階は常設展示、4階が企画展示室となっており、この時は「超技の世界 ―瀬戸焼・美濃焼・名古屋絵付など―」が開催されていた。しかし、実際はすべての展示品が「超技の品」と言ってよいほどで、趣向の凝らし方が半端ない。
左:砂をまいたような質感とパステルカラーが見事に調和した「石目焼」。管理人のお気に入り。右:おっさん二人が泉のほとりで休んでいる様子がなかなかリアルな花瓶。でも、花よりおっさんのほうが明らかに存在感が強くなると思う。どれもこれも興味深い趣向の作品で、全部見て回るのに2時間近くかかった。残念なことに、世界大恐慌や戦争などの影響で、装飾品としての陶磁器は欧米では売れなくなり、こういった作品は今の日本では作られておらず、技術の一部も失われてしまった。だからこそ貴重な品々なのだが、これが個人のコレクションという点が素晴らしい。
実は、横山美術館のすぐ隣にはヤマザキマザック美術館といって、これまた私企業によって設立された美術館があり、こちらは近代のフランス絵画やアールヌーヴォー時代のガラス作品が充実している。さらに徒歩数分でCoCo壱番屋の創業者が開設した宗次ホールがあるし、こんなふうに企業や事業家が、利益の一部をアートに還元してくれるのは本当にありがたい。
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