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びおら弾きの微妙にズレた日々(再)

音楽・アート(たまにアニメ)に関わる由無し事を地層のように積み上げてきたブログです。

   

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シャガールは何に描いてもやっぱりシャガール

年が変わってからずっと楽しみにしていた愛知県美術館のシャガール展、ゴールデンウィークの谷間を狙って見てきた。

今回の展示は、舞台美術や聖堂のステンドグラス、オペラ座の天上画など、キャンバス以外の大作が中心となっていて、シャガールの別の面を知るよいきっかけとなった。というのも、それまで自分が持っていたシャガールのイメージというのが、天才にありがちな、内面を掘り下げることに夢中になりすぎて人付き合いがうまくできない芸術家、であり、そのイメージのもとになったのがどの作品にも必ず顔を出す特定のモチーフと、独特の色の配置だった。ちなみにシャガールの色使いは、色彩学の専門家に言わせると病的な気質を示す合わせ方なのだという。


しかしこの展覧会では、シャガールの年をとっても一向に衰えない創作欲、創作を進めるために必要なコミュニケーション能力を見せつけられることになった。カンバスだけでなく、舞台美術、ステンドグラス、陶芸、織物など、様々な素材を使って独自の世界が表現されているわけだが、それを成功させるには各分野の職人との密接なコラボが必須だ。作品からはシャガールが各分野の職人の尊敬を見事に勝ち取った痕跡がうかがえる。そして実は「精神的に病んでいそうな天才」というイメージの真逆を行く職人的で健全な仕事ぶりの芸術家だったと知る。



展示品の中で特に興味をひいたのが何枚も残された下絵。オペラ座の天上画や病院のステンドグラスなど、大作を制作するにあたり、シャガールはアイデアスケッチからプレゼン用までさまざまなレベルの下絵を描き残しており、見比べてみると、人物やモチーフを大雑把に書き付けた下絵と、線画は一切なしで色の配置のみを記した下絵があり、モチーフと色を別々にイメージ出しして、のちに合体させる方法を取っていたことが読み取れる。恐らくシャガールにとっては人の顔だからピンクやオレンジをつける、という発想はなく、もっと全体的に俯瞰しながら一枚の画としてメッセージを発する色の置き方をしたように見受けられる。だから見る人によっては色のつけ方がマトモじゃない=精神がマトモじゃないと受け取ってしまうのだろう。

色よりももっと気になるのは、どの作品――それがステンドグラスであろうがタペストリーであろうが陶器であろうが、必ず「恋人たち」「山羊」「雄鶏」「街並み」といった特定のモチーフが登場することだ。3つ揃うケースもあればどれか一つのみ、ということもあるが、まるで作品に刻印を押すかのように執拗に登場する。もちろんそれぞれのモチーフには意味があるのだけど(例えば「山羊」は「家族」を象徴するなど)、これはやはり病的なこだわり、といっても良いのかもしれない。

シャガールの作品のテイストは当時フランスで流行っていたドビュッシーやラヴェルの音楽を彷彿とさせる。いやそれどころか彼らの音楽を絵にしたらシャガールになるのではないかというくらい、近いものがある。はっきりとした輪郭や形式を持たず、音と形が現実世界ではあり得ないやり方で響きあう世界。音楽だけではない。「ペレアスとメリザンド」など、当時歌劇の素材として使われた戯曲も、謎に包まれたどこか不思議世界のイメージがあって、やはりシャガールの作品のイメージそのままなのだ。

芸術家は時代の空気に敏感だ。おりしもフロイトやユングによって発見された「無意識」がもてはやされ、芸術にも「無意識の世界」が積極的に取り入れられ始めた時代のこと、シャガールのあの不思議に懐かしく、それでいて不安を掻き立てる幻想世界は、世界大戦を二度も経験することになったあの時代のヨーロッパの空気を反映したのではないか。技術の発展や科学知識、宗教観の変化によって古い価値観が失われてゆく。それが良いことなのか悪いことなのかまだ判じることができないまま、郷愁と希望の狭間で踊り続けているイメージが残る。

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