知り合いから招待券をもらった友人に誘われ、はじめてのオペレッタ鑑賞をしてきた。メルビッシュ湖上音楽祭日本公演のヨハン・シュトラウス「こうもり」。おなじみのワルツに乗って登場人物たちがめまぐるしく歌い踊る。
最初は、オーケストラ演奏と歌を中心としたオペラ的なものを想像していたが、実際はずっと演劇に近かった。しかもお笑い系。吉本新喜劇を彷彿とさせるドタバタ喜劇の中で、アクセント的に歌を聞かせたりバレエやワルツを見せたり、時には観客の反応を見てアドリブをまぜ込んだりして、とことんエンタメに徹している。ことに酔っぱらいの描写ときたらリアルすぎて「アイタタタ……」と身に覚えのある御仁も多そうだ。おそらく本場では風刺をきかせたアドリブを連発して客の笑いをとっているのではないだろうか。
ウィーンの上流社会を舞台に、新婚夫婦がおバカな舞踏パーティに巻き込まれる。
夫は禁錮刑の前日に悪友の誘いを断りきれず、妻には「早めに刑務所へ行く」と偽って舞踏会へ。昔の恋人に付きまとわれる妻の方も、夫がいないのをいいこと幸いに仮面をつけた上で舞踏会へ。さらにその家のメイドの娘も同じ舞踏会の招待状をもらって、こっそり「奥様」のドレスを拝借し、やはり身分を偽って出かける。いざ舞踏会会場に来てみれば、刑務所の所長までもが偽名で参加してきたという可笑しさ。
お互い正体がバレバレなのだが、あえてバレてないふりをする必死さがたまらない。もちろん最後まで隠し通すのは無理なので、最終的には修羅場が待っているのだが、これ以上ネタバレしてしまうと、まだ話を知らない人にとっては大損になるので、詳しくは語らない。(でもやっぱり吉本)
どの登場人物も等しくおバカで情けない一面を持ち、若くて可愛い子に弱かったり、昔の恋人に引きずられたり、出世欲があったり、ただ何もかも退屈で娯楽が欲しかったり。もちろんワインと歌と踊りは最強のなぐさみだ。この「あるある」的な人間臭さを、ヨハン・シュトラウスの上品で軽妙な音楽が包み込む。定番の「美しく青きドナウ」にのって4組のバレエダンサーたちが舞い踊るシーンはさすがにぐっときた。J・シュトラウスのワルツやポルカは、本当にウィーンの宝だよなぁ。
壮大な異世界へ旅をするタイプではなく、うんざりすることだらけの日常を愛おしく見るためのちょっとしたからくり、みたいなエンタメ作品だったわけだけど、19世紀のウィーンでこれが大流行したのって、感覚的によくわかる。
(※参考資料として
「音楽都市ウィーン――その黄金期の光と影」を挙げておきます)
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