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びおら弾きの微妙にズレた日々(再)

音楽・アート(たまにアニメ)に関わる由無し事を地層のように積み上げてきたブログです。

   

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ジークフリート少年と愉快な(?)大人たち -2

それでは「どうしてこうなった?」の続きを。

実は、「ラインの黄金」「ワルキューレ」と物語をたどってくれば「どうしてこうなった」ではなく、なるべくしてそうなった、というのがわかる。1つ目のキーとなるのは「指輪」の生い立ち。

もともと「指輪」がどんな形で世界に存在していたかというと、ライン河の底で眠る「ラインの黄金」であり、ラインの乙女たちが守る宝物だった。

そこへ、ニーベルング族のアルベリヒがラインの乙女たちにちょっかいを出しに来た。さんざんからかわれた挙げ句に「愛を断念すれば、ラインの黄金から世界を統べる〈指輪〉を作ることができるけど、アンタにはムリね」と言われたものだからさあ大変。逆上したアルベリヒは黄金を奪い、愛をあきらめ、本当に魔力を持つ指輪を作ってしまった。彼はニーベルング族の支配者となり金銀財宝を貯め込む貯め込む。
こんな形で、ニーベルング族アルベリヒが「指輪」の製作者であり、初代持ち主。

次の持ち主は、神々の王にして諸悪の根源、ヴォータン。
ヴォータンは新しい城を巨人族に作らせたものの、支払代金のやりくりに困っていた。支払えなければ美の女神を差し出さなくてはいけない。さんざん頭を悩ませた挙げ句、火の神ローゲ様の入れ知恵で、地底で金銀財宝を溜め込んでいるアルベリヒをだまくらかし、彼の財産を手に入れることに成功した。もちろん、世を統べる「指輪」も含めて。
アルベリヒが烈火のごとく怒るのは当然。奪取を心に誓うのは当然として、指輪に呪いをかける。

指輪の魔力よ!指輪の持ち主に死をくだせ! 
どんな陽気な男も、指輪とともに、明るく生きることはできず、 
どんな幸福な男も、指輪の光の中で、幸せではいられない! 
指輪を持つ者は、不安にやつれ、 
持っていない者は、嫉妬に苦しむ! 
誰もが指輪を持ちたいと望むのに、 
指輪から利益を引き出す者は一人もいない! 

       (アルベリヒによる指輪の呪い-オペラ対訳プロジェクトより)

呪いのかかった指輪が次に行く先は、城を建てた巨人族、ファフナー&ファゾルト兄弟のところ。建設代金として財宝+指輪を手に入れてウハウハしたものの、それも束の間で、たちまち分け前争いを起こし、弟ファフナーが兄ファゾルトを手にかけ殺してしまう。指輪が呪いの力を発揮した最初の例。しかし、ファフナーは大したもので、指輪ごと財宝を抱え込むと森の奥の洞穴に引きこもり、大蛇として宝と一緒にまどろむことになる。最強の剣ノートゥングを携えた「英雄」が倒しにやってくるまで。

そして次の持ち主が「英雄」ジークフリートなのだ。彼はもちろん指輪の由来や本来の力などつゆ知らず、森の小鳥に言われるまま無邪気に指輪を自分のものとし、ブリュンヒルデを見つけ出す(「小鳥」とは??)。輝かしいエンディングを聞くと、あるいは、彼なら呪いの力を打ち破れるのかもしれないと、淡い期待を抱くけれど、それが幻影でしかないことは「神々の黄昏」で明らかになる。



さて、2つ目のキーはというと、諸悪の根源ことヴォータンの存在。「神々の王」という設定でありながら同時に「諸悪の根源」とは何事か、と思われるかもしれないが、ワーグナーの描く「指輪」の世界においては、神=正義ではない。神=力であり、道義的な善悪は関係ない。

では実際にヴォータンの所業を順に挙げてみよう。
  • 支払い代金のあてもないのに新しく神々の住まう城「ヴァルハラ」の建設を巨人族に発注した。
  • いざ、完成してみると、やはり代金はなく、女神フライアを人質にとられてしまう。そこで、地底の一族、ニーベルング族から財宝を奪うことを計画。大義名分は「ラインの黄金で作られた指輪を取り返し、ラインの乙女たちに返却する」。だが、財宝を手にしたヴォータンは支払いを済ませ、ラインの乙女たちなど一顧だにせずヴァルハラへ入城してしまう。
  • 「世界を支配する指輪」のことがどうしても忘れられないヴォータンは、できるだけ自分の手を汚さずに指輪を奪回する計画を立てる。というのも、ヴォータンが神々の王である理由は「契約の槍」を持っているからであり、もしも彼が巨人族から直接指輪を取り返せば、城の建設代金を支払うという約束を破る=契約違反となり、神々の王ではなくなってしまうからだ。
  • ゆえに、彼は人間との間に子を設け、しかも指輪の話はいっさいせず社会の規範に反逆するような精神を植え付ける。それがヴェルグンズ族のジークムントとジークリンデの双子であり、ジークフリートの親。ちなみにジークリンデは幼い頃に人さらいにあい、別の場所で育っており、ジークムントと奇跡の再開を果たした後、互いに恋に落ちている。
  • 「契約の神」として君臨するヴォータンだが、実は結婚の契約はこれっぽっちも守っていない。正妻フリッカのもとにはほとんど帰らず、大地の神エルダとの間に城の守り神ワルキューレを設けたり、上記の通り人間との間に子をなしたり。それでも神でいられるのは、恐らく結婚だけは別枠の「契約」であり、それを守るのは妻にして結婚を司る神、フリッカの役目だからであろう。男性にとっては非常に都合の良い設定である。
  • とはいえ結婚を含む「契約」を守るために最愛の息子ジークムントの命を奪わざるを得なかったし、最愛の娘ブリュンヒルデをも手放すことになる。苦悩の王になるが、それ見たことかと思わないでもない。
  • いざ、ジークフリートが誕生すると、もはや直接の手出しはせず、「恐れを知らない者」として順調に成長しているのを見守るだけとなる。しかしジークフリートを取り巻く敵たちを巧妙に煽り、共倒れに持ってゆく作戦は怠らない。この時点では、大蛇退治&指輪の奪還にジークフリートが成功すれば、言葉巧みに語りかけて指輪を譲り受ける算段だったのだろうか。
  • その後、さすらい人を装って一度だけ成長した孫息子と対話をするが、もはや力ではかなわないと悟り、名実ともに退場する。
どうだろう。ヴォータンの権力欲がそもそもの発端であるばかりか、事態をひどくした要因であることが見て取れるのではないだろうか。さらに、権力を求めてうごめくのは彼だけでなく、アルベリヒやミーメ、ファフナーなど、物語を動かしているのは影の中で生きる者たちだ。

ただし、ひとつ例外がある。それは、ヴォータンの権力欲に火をつけて増大させ、また、ヒロインであるブリュンヒルデをジークフリートが成長するまで守り通した火の神ローゲの存在だ。彼は光に属する身でありながら、狡猾にこの悲劇全体をコントロールしている節がある。これは、あくまでも直感にすぎないが、小鳥を操ってジークフリートにブリュンヒルデの存在を教えたのはローゲの仕業かもしれない。

結局、ジークフリートはヴォータンの遠大な指輪奪還計画のために生み出された存在であり、強い力を持ったこの哀れな少年を利用してやろうという輩に囲まれていた。
大蛇として倒されたファフナーは、最期の瞬間、ジークフリートからその名を聞いたときにこの構図が見えたに違いない。ジークフリート自身もそれを薄々感じ取ったのではないか。大蛇退治の後に現れる「呪いの動機」を弾いていると、そんな思いが強くなる。
契約の槍をノートゥングで真っ二つに折るシーンでは、あたかもヴォータンの支配を退けたかに見えるジークフリートだけども、「神々の黄昏」を見ればわかるように、結果的には指輪の呪いを打ち破ることはできなかった。そして指輪の呪いがなぜ発動したかといえば、遠い昔にヴォータンがアルベリヒを騙し討ちにしたせいであり、その意味では、ジークフリートは最初から最後まで「神々の王」に踊らされていたわけだ。

ジークフリートは確かに光の子として描写されており、暗澹たる世界を救う存在かも、と思わされるが、彼の光は強く純粋すぎて、影もまた濃く強くなるらしい。

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