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びおら弾きの微妙にズレた日々

ニールセン:噛めば噛むほど味わい深い作曲家

デンマークの国民的作曲家といわれるカール・ニールセン。シベリウスと同じ年に生まれ、ほとんど同時期に活動したにもかかわらず、日本での知名度は今ひとつ。もちろん交響曲第四番「不滅(消しがたきもの)」や交響曲第五番は有名だし人気のある曲だけれども、交響曲二番ともなると、かなりマイナー。

何の縁があってか、その交響曲第二番を今回の演奏会で弾くことになり、しかも何の因果かトップまで勤めることになった。
初めて曲を聴いたときは「現代曲くさくなくて、雄大だしいい感じやん♪」と喜んでいたが、楽譜を見たら目が点になった。♭や♯がやたらに多い。微妙な転調は多いし、一つの楽章の中で2拍子と3拍子がくるくる入れ替わる。なぜこんなに面倒な譜面なのか。(そりゃシベリウスだって凶悪な譜面だけども)
さらに「四つの気質」というコンセプトは確かに分かりやすいけれども、この交響曲は標題音楽のように見えて実はそうではないという。あれこれ疑問がわいてきたので、ちょこっと自分なりに調べてみた。
まずは作曲者ニールセンの略歴から。
1865年 デンマークのフュン島に生まれる。父はペンキ職人で12兄弟の7番目。貧しい生活だったが、父は村の楽士で、カール坊やは6歳のころから父の楽団でヴァイオリンを弾いたりしていたという。成長してからは村の雑貨店に奉公に出るが、14歳のとき近隣の町、オーデンセの軍楽隊に欠員が出たと聞くとすかさず応募し、トランペット(&ホルン)奏者の席をゲット。
19歳でコペンハーゲンの音楽院を受験するも不合格。学院長のニルス・ゲーゼに作品を見てもらって入学が許された。 卒業すると室内楽の作品をいくつか発表し、好評を得る。24歳で王立劇場オーケストラのヴァイオリン奏者となり40歳まで団員として活動する。
26歳のとき、奨学金でヨーロッパ旅行に出た際、パリでアンネ・マリー・ブローデルセン(彫刻家・デンマーク人)と出会って結婚。ケンカは多いが仲のいい夫婦だったらしい。
翌年、27歳で交響曲第1番を完成。10年後には交響曲第2番『四つの気質』を発表する。その後、交響曲はもちろん、オペラや歌曲を含む広いジャンルに渡って作曲活動を続け、66歳で逝去。今ではデンマークの100クローネ紙幣に肖像画が使われている。おおむね順調な作曲家生活だったが、デンマーク国民に人気があったのは主に彼の作った歌曲であり、交響曲は「難解」とされて最近まで敬遠されていたという。

次はサブタイトルにもなっている〈4つの気質〉について。
これは当時ヨーロッパで主流になっていた人間の気質の分類法。ギリシャはヒポクラテス以来の分類法だけども、今の血液型占いと結構似ている気がする。(ただし、血液型はあくまでお遊びですから)
1.胆汁質(短気で決断力があり、誠実)→O型?
2.粘液質(慎重で冷静。テンション低め)→A型?
3.憂鬱室(独創性・探究心があり孤独を好む)→AB型?
4.多血質(明るく気分屋)→B型?
ニールセンは、とあるパブでこの四つの気質を描いた絵を見かけ、そこからヒントを得てこの交響曲を書いたという。

さて、この〈4つの気質〉と交響曲第二番がどんなふうにつながっているか。
見た目は非常にわかりやすい。
1楽章 アレグロ・コレリーコ (コレリーコ=胆汁質)
2楽章 アレグロ・コモド・エ・フレマティコ (フレマティコ=粘液質)
3楽章 アンダンテ・マリンコーリコ (マリンコーリコ=憂鬱質)
4楽章 アレグロ・サングイネオ(サングィネオ=多血質)

と、ちゃんと各章にタイトルがついている。でも標題音楽(特定の事物を表現する音楽。たとえばスメタナの「モルダウ」など)ではないと作曲者はコメントしている。どういうことだろう。
実は、4楽章を通じてほぼ共通の動機がある。各主題の冒頭に現れる二つ(三つ)の音。1楽章なら、ソレとドミ。2楽章ならシレ。3楽章ならミソ。4楽章ならレラレとドミラ。いずれも第一音より二音目の方が高い。
たぶん、一つの動機を交響曲のルールに従いながら「胆汁質」風に展開したらどうなるか、「粘液質」風に展開したらどうなるか……(以下同文)という具合でこの交響曲は書かれているのではないだろうか。
その結果、
1楽章は二拍子、ニ長調のマーチ風、ときどき三拍子のゆったりした第二主題入り、
2楽章は三拍子、ヘ長調の少し気だるそうなワルツ、
3楽章は遅めの四拍子でしかも変ホ短調なので重々しく歩みを進め、悲劇に突入する感じ、
4楽章は再びニ長調で軽快な二拍子、たまに暗くなるけれどもすぐに立ち直る能天気な明るさ、
を特徴として持つことになった。もし過去の作曲家の作風に例えるなら、1→ベートーベン風、2→チャイコフスキー風、3→シベリウス風、4→モーツァルト風、という具合だろうか。
だから「4つの気質を表現した交響曲」ではなく「4つの気質をネタにした交響曲」と見るべきなのだろう。

今、「交響曲のルールに従いながら」と書いたけれども、この曲にはユニークな音階が沢山出てくる。普通のドレミファソラシドとは微妙に違う音の連なりが出てきて、それが目まぐるしく転調を繰り返したりするのだ。おかげで楽譜は臨時記号の嵐。最初は楽譜どおりに弾いても正しい音が出ているのかどうかも判別できないくらいだった。
ところが何度も弾いてに耳になじんでくると、不思議なことに「この音の並び、きれいに響くじゃん♪」と感じるようになる。ニールセンは後に調性にこだわらなくなるが、シェーンベルクのような無機質な12音階技法は使わなかった。言うなれば、「ニールセン音階」というものを持っていて、それに当てはめた独自の美しい旋律をいくつも生み出した。それを現行の楽譜表記の方法で書き表すと、どうしても煩雑になってしまう。そういうことらしい。

うん、とっつきは悪いが、噛めば噛むほど味が出る曲だ。
ちなみに、ニールセン自身の性格は、1楽章の胆汁質に近かったと思われる。


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