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びおら弾きの微妙にズレた日々

マーラーはここから始まった

ブルックナー祭りが鎮まってきて、次の演奏会へとエンジンを温め始める季節。
次回も祝祭管はマニアックな選曲だ。メイン曲はマーラーの最初期のカンタータ「嘆きの歌」しかも初稿版。


曲が決まった時、某熱帯雨林へ赴いて検索をかけたは良いが、どの「初稿版」を買ったらいいのか迷いに迷って、えいやっと↑のCDをポチったら正解でホッとした。

つい先日、コンマス氏より「初稿版」についての詳しい解説つきメーリングリストが届いた。大変ありがたかった。曲が作られた経緯、歌の内容について読み進めるにつれ、やはり天才は最初から天才なのだと思い知り、同時にマーラー特有の厨二病的世界の出発点は、まぎれもなくこの作品にあると知って感動すら覚えた。

「嘆きの歌」は3部構成の悲劇。各章の内容を超訳すると↓のような感じになる。
(※メーリスの内容をそのまま切り貼りするわけにはいかないので、管理人がネットで拾い集めた資料をもとに再構成してみました)

1.森の伝説 Waldmärchen
  ある時あるところに、非常に気位の高いお姫様がいた。彼女はあまたの求婚者を退けたあげく「森の奥に咲く赤い花を見つけた騎士を結婚の相手とする」と宣言。多くの騎士に混じって、ある騎士の兄弟がお姫様のチャレンジに応え、森に入る。性格の良い弟が見事に赤い花を見つけたが、柳の下で安心してうたた寝していたところ、妬み深い兄に見つかって斬り殺され、花を奪われる。

2.楽師 Der Spielmann
  事件からしばらくして、森を通りかかった楽師が白く輝く骨に目を留める。それが笛っぽい形をしていたのかどうかはともかく、楽師は骨を横笛に仕立ててしまう。奏でてみればなんと笛は兄に斬り殺された弟の悲しい嘆きの歌を歌い出す。楽師は各地でその歌を吹き散らした末、真実を告げるためお姫様のいる城へ向かうことにする。

3.婚礼の音楽 Hochzeitsstück
  折しもお城はお姫様の婚礼が始まるところ。しかし結婚相手となる兄騎士はどうも落ち着きがく顔色が悪い。そこへ楽師が嘆きの歌とともに現れる。真実を語る笛の歌で半狂乱になった兄騎士が、楽師の横笛を取り上げて自ら音を出したところ、弟の恨み節が流れてきて完全に気が触れてしまう。お姫様は卒倒し、お城も崩れて、はいさようなら。

この曲の台本は、マーラーが民話やグリム童話などを参考に自分で書き起こしたものだという。書き始めた時、マーラーはまだ19歳で、ウィーン音楽院に在籍中。その後2年かけてこの楽曲を完成させる。
完成したこの曲は、作曲コンクール「ベートーヴェン賞」に送り出されるが、斬新すぎて見事落選。しかしマーラーはよほどこの曲に思い入れがあったらしく、後に第一部を削り、第二部・第三部も部分的に改稿して、演奏しやすいスタイルに書きなおしている。

それにしても、歌の内容が、いかにも若い子が書きたがりそうな悲劇でひどい(褒め言葉)。
かぐや姫のごとく求婚者に難題を押し付けるお姫様、旧約聖書のカインとアベルを彷彿とさせる兄弟。何より際立つのが死者の骨を拾って笛にしてしまう楽師。おいおい、普通は死者の骨なんて商売道具にしないだろうに。
しかし、本来、楽師とはどこにも属さず、どんな権力にも従わなくていい境界の住人「マージナル・ピープル」だ。お城だろうが田舎の広場だろうが、宴会のあるところならどこへでも顔を出して、自分の芸を披露し、権力者の虚偽をあばき、時として現世と異界をもつなぐ。だから、楽師が死者の骨を拾い、真実を告げに婚礼真っ最中のお城へ乗り込み、なにもかもご破産にしてしまうことは、寓話として正しい。とても正しい。

これはあくまで推測だけれども、若く野望にあふれたグスタフ青年は、音楽の道に踏み込むにあたり、この作品を発表することで、自らを楽師と定めたのかもしれない。

その後、生まれてきた数々の交響曲において、マーラーは生と死の世界、天界と地上世界の対比、深刻さと軽薄さ、希望と絶望など、いくつもの境界線をまたぎ越しては舞い戻り、を繰り返し煩悶している。そのさまは、死者の骨を奏でる楽師と重なって見えないだろうか。


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