先日、知り合いの方にお声がけいただいて、「ヴィオラ・ダ・ガンバの響き」という小さな演奏会(コンソート)にお邪魔してきた。→
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場所は名古屋の大須にある「アート空間 スカーラ」という小さなサロン。天気は不安定で晴れたかと思えば、突然雷雨が襲ってくるような一日だった。この日も演奏会が始まった頃は日が差していたのに、終わる時間には土砂降り。
ガンバ族はとてもデリケートな楽器で、構造上、とても湿気に弱いとのこと。とくにこの夏は、毎日のように雨が降るので湿度が高く、楽器保護のためにサロンは空調をがっつり効かせてあった(寒さ対策のために、きちんとストールが用意されているという主催者の気遣いには、素晴らしいと言うほかありません)。
それでも、すぐに音がズレてしまうらしく、演奏会の間も一曲ごとに必ずチューニング。ヨーロッパ生まれの楽器にとって、日本の気候は大変だ。
しかし、チューニングの音さえも美しく聞こえてしまうのがガンバ族の素晴らしさ。とくに、耳をひきつけたのが、トレブルの音色。
ヴィオラ・ダ・ガンバは、音域ごとにサイズが違い、上から順に、トレブル、アルト、テノール、バスなどがあり、一般に「ヴィオラ・ダ・ガンバ」と言われているのはバスサイズ。
そして一番小さなトレブルは、実はビオラと音域がほぼ一緒なのだ。ところが、同じ擦弦楽器でありながら、この音質の違いは何? と信じられない思いをする。
たとえば、垢抜けた音とは縁遠い(とされている)ビオラのA線。しかし、トレブルで聞く高音はなんというか、非常にキラキラして華やかで、チェンバロの涼しげな響きがずっと続いているような「最高かよ」とつぶやきたくなる音なのだ。
単音を鳴らしているだけなのに、和音を聞いているかのような豊かな倍音が聞こえる。この豊かな倍音もガンバ族の特徴だそうで、ぱっと見は似ている近代型の弦楽器とはかなり別物。
少し話はそれるけれど、バロック以降、クラシック曲の演奏で主に使われている弦楽器(バイオリン族)は、丈夫さ扱いやすさ、音量と張りのある音色を求めてどんどん今の形に改良されていた。そのいっぽうで、ガンバ族の楽器は、改良できなかったらしい。改良しようとすると、繊細で豊かな響きが失われてしまうからで、結局広い場所での演奏には向かず、ずっとサロン向けの楽器のままで、ホール演奏が主体になった近代以降は存在感を失っていった。
だからこそ、サロンという狭い空間で聞くガンバの音は絶品としか言いようがなく、「より強くより大きく」が取りこぼしていった繊細さを思う存分味わうことができた。
コンソートの後は、公開レッスン。アマチュアの古楽アンサンブル団体が、テレマンの組曲についてレッスンを受ける様子を拝聴。
編成は、バロックバイオリン+フルート・トラヴェルソ(バロック式フルート)+ガンバ+リュート(長い共鳴弦つき!)+チェンバロ。
バロックバイオリンは、弓がガンバと同じ作り(横から見て山形に湾曲している)のと、肩当てを使わず、滑り止めの皮を楽器と肩の間にはさんで構えるスタイルが「へぇ!」。
トラヴェルソの音色は素朴というか柔らかで、耳にやさしい。リュートは珍しいタイプなので、実物を目にできた時点で大興奮。
レッスンは、聞いているだけでもすごく勉強になる。聞き所のある音楽にするにはどうすればいいか、フレーズの作り方はどうすればいいかが、実例つきでよくわかる。音楽の流れを注意深く読み取り、イメージを作る作業が大事で、これはモダン楽器の世界でもまったく同じなのだ。
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