3年ほど前から縁あって古楽器沼のほとりに立ち続けているところだが、本日はこれまた何かと縁のある宗次ホールにて、バロックアンサンブルの演奏会を聞くことができた。
宗次ホールは約300席の小さなホールで、主に室内楽や小編成のコンサートを開催している。その頻度が半端なく、年に365公演とか鬼のような数。毎日なにかしらの演奏会を開いているという計算。
名古屋圏において、クラシック音楽の普及に大層貢献していると思われる。
魅力的なプログラム、珍しい曲、これからブレイクすると思われる演奏者の発掘など、いつもSNSによる発信を見ながらいいなーと思いつつ、行けそうで行けない日々。それが今回、興味のある演奏会と休みのタイミングが上手く合い、さらに友人の休みまで合うという幸運に恵まれた。
コンサートの内容は、バロック・アンサンブル《ミュンヘン-ザルツブルク》というタイトルで、フラウト・トラヴェルソ2本、バロックファゴット1本、ヴィオラ・ダ・ガンバ1台、そしてチェンバロという組み合わせ。
曲は17~18世紀にかけて、イタリアやドイツ、フランスで作られたバロック曲からの選曲。この時代の曲はさまざまなスタイルが混じり合っていて、特定の型にはまっていないところが面白い。たとえば「急-緩-急」のソナタ形式があるかと思えば、舞踏曲のように6曲セットだったり、もう少し自由に7曲セットだったり。(ハイドンやモーツァルトなど、古典派以降の音楽になると、1つの作品は3楽章または4楽章編成で、真ん中の楽章はゆったりした緩徐楽章、という暗黙のルールができている)
バロック音楽ならではの楽器も興味深くて、例えば、フラウト・トラヴェルソは現代のフルートの前身だし、古いタイプのファゴットであるバロックファゴットは音色が現代のそれとはかなり違って、サックスぽい味わいがある。ヴィオラ・ダ・ガンバは一見チェロのご先祖様に見えるが、チェロはバイオリン族、ヴィオラ・ダ・ガンバはガンバ族に属するので、楽器の作りはかなり違う。どちらかというと遠い親戚みたいな関係。
バロック楽器は概して、音がとても繊細な代わりにパワーに欠けるし、ちょっとした環境の変化で音が狂いやすい。サロンでの演奏が中心だった18世紀まではそれで問題なかったが、市民が大きなホールへ足を運んで大編成の曲を聞く時代になると、繊細さよりもパワーがあって扱いやすい楽器のほうが使われるようになり、いわゆるモダン楽器=現代のオーケストラで使われている楽器が主流になってくる。
逆の見方をすれば、小さな空間であれば、繊細な響きを持つバロック楽器はとても耳を楽しませてくれる。特にガンバ族はとても倍音が豊かで、近くで聞くと単音でさえその中にさまざまな響きが宿っているのがわかる。だから、バロックのアンサンブルだと、宗次ホールぐらいのサイズが大きさの限界かなという感じがする。個人的には大須の音楽サロンで聞いたときが最高。
ほんとに心地よい音色で心が休まり、休まり過ぎて時々夢の世界へ行ったりもしたけれど、しなびた心に水を吸わせるような演奏会だった。
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