少し前の話になるが、地元の美術館でロビーコンサート、しかも夜の部を行うというので、興味津々で出かけてみた。この美術館、こじんまりとしていて静かでゆっくり鑑賞できるのだが、焼き物の町にある関係で、陶磁器関連の渋い展示が多く(時々大ヒットの面白い企画展もあるのだが)、正直言ってあまりパッとしない美術館。でも、そこがあえて閉館後にもう一度開館して、ロビーコンサート&特別鑑賞を行うという冒険に出た。
肝心の内容はどうだったかというと、イタリアのアコーディオン奏者✕美術館の企画展、という趣旨のミニコンサートで(実は宗次ホールプロデュース)、キーワードは「近現代工芸の煌めき」。
美術館では陶磁器を中心とした現代の工芸作品を展示中で、コンサートの選曲もそれにちなんだものになった。前半はバロック、後半は現代の作曲家が作った曲。これがなかなか面白い。例えばバロック時代に属するスカルラッティの曲を奏でても愛らしくて素敵な音がするが、一転して現代曲やジャズの演奏になると、これがまた音楽にピッタリな前衛的な音色になるのだ。荒野を渡る風の音からレールの上をガタゴト走る列車の音まで再現可能。技工を尽くした数々の曲を聞いて、耳は大満足(ついでに書くと、演者さんのルックスも大変良く、目の保養もできました)。
アコーディオンというのは、ジャバラから送られてくる空気でリードを震わせ音を鳴らす。原理はパイプオルガンと同じ。アコーディオンはある意味「ポータブルパイプオルガン」とも言えて、音色の豊かさはパイプオルガンと似ている。それに加えて、アコーディオンはジャバラを奏者自身の手で操りながら演奏するため、「呼吸する」楽器でもある。もちろんどんな楽器であれ、演奏と呼吸は切っても切れない関係だけども、楽器そのものが息をするアコーディオンは、人間の肺の容量に左右されない独特な表現ができる。「手風琴」と書いてアコーディオンと読ませたりするが、これは見事な当て字だと思う。
実は、アコーディオンという楽器そのものが比較的新しく生まれた楽器で、しかもこの20年で大きく進歩をとげたという。楽器そのものが「近現代の煌めき」といってもよいわけだ。ただし、アコーディオンの母体となる技術、たとえばオルガンの原型となる楽器はもう紀元前から存在したというから、古代から連綿と続く技術があってはじめて存在し得た楽器ともいえる。もちろんそれは工芸作品にも言えることで、何世代もの技術者の試行錯誤があって花開いた技術もたくさんあるのだろうなあと思った。
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