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びおら弾きの微妙にズレた日々(再)

音楽・アート(たまにアニメ)に関わる由無し事を地層のように積み上げてきたブログです。

   

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救済の夢

2013年8月25日、愛知県芸術劇場コンサートホールで行われた、「舞台神聖祝祭劇 パルジファル」全三幕(演奏会形式)を見てきた。これは企画の段階からとても楽しみで、本番は仕事が入っていたけれども有給をとって出かけた。

パルジファルは、大学オケ時代にすでに出会っていて、四年生最後の演奏会で「第1幕への前奏曲」と「聖金曜日の音楽」を演奏した。その時にこの祝祭劇の内容についてはあらかた知ったが、まさか後年になって全曲を聞く機会に恵まれるとは思いもよらなかった。ちなみに当時の印象は「金管のみなさんご苦労様」と「癒される旋律だわー。前奏曲のアルペジオは鬼だけど」で、それは今もあまり変わっていない(汗;)。やはり管楽器の響きがキモだなと。そして弦楽器は地味に大変なのだ。

さて実際に全曲を演奏会形式ながらも聴き通してみた感想は、4時間強という長丁場にもかかわらず、あっという間に終わってしまった気がしたこと。
指揮者が舞台袖から現れて指揮台の上に立つと、いきなり会場全体が暗転し、しばらくすると少しずつ舞台の上に淡く光がともり始め、闇の中からふわりと立ち上がるように前奏曲が始まる。その瞬間からパルジファルの世界に引きずれこまれた。その後延々4時間(休憩込みだと5時間)引きずり込まれっぱなし。終わった時はまるで夢からふっと覚めたよう、あるいは憑き物が落ちたよう。熱い感動というよりは、静かなさざなみのような感動が後を引く。
これが可能になるためには、歌手や合唱団、オーケストラの水準はもちろん、ホールの何もかもが最適の状態でなくてはならない。そのための労力・手間暇を思うと、気が遠くなる。なにもかも圧倒的。さすが、開演前に行列ができるわけだ。

以下、細部について箇条書きで。

☆舞台演出
演奏会形式なので、オペラのように歌手が役者のように立ちまわるわけではないし、劇のための舞台装置もない。が、細かな演出が各所になされていて、効果は抜群だった。
舞台中央、オーケストラの後方に歌手のためのステージが作られ、その後ろには黒地に銀の模様が入った垂れ幕がかかっている。オーケストラの譜面台は銀色のアルミ箔で覆われ、白い飾りも垂れている。オーケストラ奏者の衣装は、男女関係なく全員が上は白のシャツまたはブラウス、下は黒。一般的な演奏会では、男性は黒の上着を着るから少し奇異な感じがしたが、実際に舞台が始まってみると不思議な統一感がある。白と黒、そして銀色からなる聖なる世界。そこへきて、物語の展開に合わせ、色つきのスポットライトが舞台の上や背景となるパイプオルガンを照らす。例えば、紫の光がパイプオルガンの上部中央に集まれば、それは聖杯の輝きを意味するという具合。
第2幕、クリングゾルの魔の城が舞台になると、舞台後方の垂れ幕の上に一筋の赤い布が追加され、オケのメンバーは、今度は上下ともに黒の衣装。紫のライトが四方を舞う。それだけで禍々しい雰囲気たっぷりになるからスゴイ。1幕では黒ずくめのドレスをまとっていたクンドリが、濃い紫のドレス+ドレープの衣装に切り替え、妖女の雰囲気たっぷりとなる。
第3幕、ふたたび舞台が聖杯城に戻ると、第一幕と同じように白と黒の世界に戻る。それまで白シャツ+チノパン+素足でやんちゃ坊主を演じていたパルジファルは黒の衣装に身を包み、救済の騎士となり、呪いが解けた魔女クンドリは黒のスーツ姿。とてもシンプルだけど効果的な演出だった。
(クリックで拡大します)

☆日本語字幕
舞台後方の客席を利用し、左右二箇所に日本語字幕用の電光掲示板が置かれていた。三階席からも充分見え、なおかつ歌手やオーケストラも同時に視野に入るという絶妙の配置。
自分はとにかくストーリーを追いたい人なので、まずは食い入るように字幕を読み、それから歌手の歌声に聴き惚れ、ぴったりつけてくるオケの音に感心するという順番。
すると、歌の内容と音楽の内容が見事なまでにシンクロしていることがわかり、やっぱりワーグナーすごい、という結論になる。もちろんドラマも大いに味わい、寝てる暇はなかった。
ただし、時々意味が通りにくい訳文も……字数制限もあるだろうし、原文自体が意味不明な場合があるから仕方ないのだけど、音楽に助けられ、結構脳内補完しながら読んでいたと思う。本来は音楽が主体で字幕は補助的な役目を負うものなのだろうが。

☆歌手&合唱隊
全体的に素晴らしかったのは言うまでもないが、個人的に好きだったのは1番パルジファル(やんちゃ坊主から救済の騎士への変身ぶりが素敵すぎ)、2番クンドリ(あんなに複雑で難しい役どころをよくぞ演じきって下さいました)、3番花園の乙女たち(パルジファルを落とそうとする勢いの凄まじさったら。見事でした)
ツイッターで検索してみたら、アムフォルタス王の苦悩ぶりが素晴らしかったとの評を多く見かけた。思い返してみれば確かにその通り。また、クリングゾルの悪役ぶりも素敵だった。
合唱隊は舞台の背景的及び黒子的なポジションだけども、きちんと耳を傾けてみると良い仕事をしているのがわかる。決して主役たちの邪魔をせず、上手く合いの手を入れ、必要な時には神々しい響きでホールを満たす。実はとてもレベルが高い。

☆オーケストラ
お疲れ様でした。何よりもそれです。
4時間もの間集中して演奏を続けることがどれほど大変か、想像に難くない。
細かいことを言えば、1幕のTpトップの人がものすごい上手かったとか、全体的に上手いんだけど、時々現実的な金管の音色が聞こえてしまったとか、ホルンの弱音での音の出が超難しそうだとか、弦は大事な旋律はきっちり押さえているけど、弾けてるようでごまかしている箇所が実は結構あるだろうとか、いろいろあるけれど、彼らはプロではなく、日々の仕事や家事育児の合間を縫って練習時間をひねり出している人たちだ。それぞれに出来うるベストを尽くしている。そしてコンサートホールは救済の響きに包まれた。

☆今回の打楽器センター
センターと言っても、鳴り物は少ないのだ。今回舞台に乗っていたのは、ティンパニ2台×2組、小太鼓、鐘の音を再生するためのパソコン、と少なめ。でもそのティンパニがここぞというところで効果的に鳴り響く。時に管・弦楽器を圧倒する音量で、どうやったらあれほど迫力ある音が出せるのか不思議。
そして鐘の音! 少しでもイメージに近い音を求めた結果、ヨーロッパの教会の鐘の音を録音してパソコンで加工し、指揮に合わせてキーを押すことで数種類の鐘の音を順次鳴らせるようにしたものが使われたという。実際の響きは、よく聞けば確かに録音だなとはわかるものの、全体にくまなく教会の鐘が鳴り響いて、まるでホールが聖堂になったかのような効果があった。
いまどきの打楽器奏者は工作(自前で楽器を作ることも含む)に音データ加工まで、マルチタスクじゃないと務まらないのね、と感心しきり。

☆パンフレット
装丁、内容ともに非常に充実していて、売り物にしてもよいくらいのレベルだった。解説がたっぷり載っていて読み応えがあるかと思えば、漫画によるわかりやすい解説も。ネットで公開されているので興味のあるかたはどうぞ→「5分でわかるパルジファル」
個人的に一番興味深く読んだのはクンドリの解説だった。この魔女は本当に奥深いね。
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