先日、「酒蔵コンサート」なるものがあると知り、友人を誘って行ってみた。
江戸時代末期のこと、余った名古屋城改築用建材を買い取って建造された酒蔵があり、そこを会場にして、年一回、バロック音楽のコンサートが開かれているという。もちろん日本酒の試飲つき(むしろこっちが目当て……なんてことはない)
編成は、チェンバロ、バロックチェロ、バロックバイオリン。
そして、歌手がなんと! ドイツから招いたというカウンターテナー!(「もののけ姫」を歌った米良さんと同じ声域ですよ)
曲目は、テレマン、シュッツ、バッハなどなど、バロック音楽の大家による曲が並ぶ。もともとバロック時代の音楽は、大きな場所での演奏を想定していないので、編成は小さいし、楽器自体が大きな音を必要とせず、ソリストの声を決して邪魔することなく、バランスの良い編成だった。また、会場のサイズとしても、お客が50人も入ればいっぱいになってしまう酒蔵はちょうど良い(残響はほとんどないけれど)。
バロックチェロは始めて見たが、エンドピンがなく、ガンバのように膝の間にはさんで弾く。弦はたぶんガット弦。アジャスターがなく、すべての弦をペグのみで合わせる(難しそう)。弓はガンバの弓のように真ん中がふくらんでいるタイプだけども、持ち方は現代チェロと似ている。ただし、毛箱の近くをがっしり持つのではなく、もう少し真ん中よりの場所を軽く持っている。ガンガン鳴らすよりも、丁寧で美しい音を出すことを重視している感じ。
バロックバイオリンも同じように弦の音程を微調整するためのアジャスターがなく、肩当てなしで弾く。構え方は、楽器をあごと首でしっかり挟むのではなく、首と肩でバランス良く支えていて、できるだけ楽器の響きを殺さないようになっている。
これは、先ほども言ったように、サロン等の小さな空間で演奏することが前提になっているため、音量よりも音質が重視されているためだろうと思う。チェンバロもまさにそれで、楽器の機構上、大きな音が出ないかわりに、倍音が豊かで万華鏡のようなキラキラした音色が出るし、曲調に合わせて音質を変えることもできる。
このように、デリケートな楽器の音の上に乗るカウンターテナーの響きときたら、もう美しいというほかはない。
カウンターテナーというのは、女声のアルトの音域を歌う男性歌手のことだが、同じ音域でも、男性の声(ファルセット)と女性の声では響きの質が違って面白い。
さらに興味深かったのが、曲の合間に入る解説。
ごく初期のバロックの歌はしゃべりと歌の中間みたいな歌い方であるとか、テレマンがイタリア風に作った歌曲の特徴だとか(賢くて美しい女性を追いかけるアフォな男性の図)、バロックのコード進行とジャズのコード進行に共通点がある話だとか、豆知識や蘊蓄がたくさん。
これは個人的な印象だが、古楽をやる人は、深い蘊蓄を持っている人が多い気がする。音楽を極めるだけでなく、音楽に関わる知識や当時の音楽を取り巻く社会状況にも通じていて、幅広い知識の上に音楽が乗っかっているイメージ。これは、かつて音楽がリベラルアーツだった頃の名残かもしれないと思ったりした。
それで、酒蔵から出た後はどうしたかって?
気がついたら今年の新酒を予約していました。「霜月」という銘柄だそうで、ちょうど誕生月のお酒。
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